ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 お別れの日

 今日は中1男子のTくんの最後のレッスンでした。
 彼はスポーツマンで小さい頃から走るのも早かったし、テニスもピアノと同じくらい長く続けていて、わざわざ公式テニス部がある中学校を選んで入学したので、絶対にピアノはやめなくてはならないだろうなぁと思ってはいたのですが、やっぱりさびしいものはさびしい…ということで、今年に入ってからずっとそのことが引っかかっていました。
 3月に入っても、彼がちっとも今後の話をしないので、とうとう「中学校に行ったらどうするの?!」と聞いてもやっぱり煮え切らない返事です。
 しびれを切らして3月の最後のレッスン日の前の日に彼のおかあさんにお電話したら、「実はわたしもどう考えてもムリでしょ!?って何度も言ってるんですけど、本人が『まだ決められない!』の一点張りで…すみません!」と言うのです。
 仕方がないので翌日、本人に再度確認したら「ずっと考えてたんだけど〜部活の本入部は5月だから、せめて4月いっぱいは続けられないかなあと思って!」と言いました。なんてうれしいことを言ってくれるのでしょう!?(笑)
 そんなわけで、貴重な最後のひと月は「今後もずっと弾けるレパートリー作り」とテーマを決めました。あんぷ(見ないで弾く)で楽々弾けるようになろう!という目標に従って彼が選んだのは、ちょっと前にやった「バッハのメヌエット」とバイエル最後の方のレベルのアレンジがされている「ドラクエのテーマ」といきものがかりの「ブルーバード」で、実はそんなに練習好きな子ではなかったですが(笑)立派に今日までに全部あんぷでちゃんと仕上げました!スバラシイ!!
(こっそり言うと、そのやる気をもっと前に出してくれたら尚よかったのですが、そんな贅沢は言えません! 笑)
 とはいっても4月になってからはやっぱり慣れない学校生活もあって忙しくなってしまい、仮入部だなんだかんだで来れない日もできてしまいました。
 どう考えても4月中にあと2回を入れるのはムリという事態が生じたので、「最後のレッスンは4月24日に1時間にして2回分やろうか?」と提案したら、意外にも結構強い口調で「それじゃ困るよ!あと2回しかない貴重なレッスン日なのに、まとめられたら仕上がらないし。せっかくがんばってるのに。」と抗議されてびっくり(笑)
 実は彼にはおねえちゃんがいて、彼女が中2の頃、急に部活の顧問が変わって忙しくなってピアノが続かなくなってしまった際は、最後の方は月謝を払った途端来なくなって、メールをしても電話をしても出てさえくれなくなったという苦々しい経験があって、そのことがかなりのトラウマになっていたのです。
 そのことが頭にあって、弟くんとはいい関係を保ってさよならしたい…という気持ちが強すぎて、ついつい逃げ腰になっていたのかも。
 Tくんは「ゴールデンウイークがあるんだし、最後は5月になってもいいからちゃんと4月分は4回で、いつもどおりにやりたい!」と言ったのですが、それはしごく当然でまっとうな意見です。
ああ、わたしってばなんて浅はかだったんだろう!?と深く反省しました。何人生徒を持ってもやっぱりピアノを卒業!という瞬間はさびしくて弱気になってしまいます。どの生徒もつきあっていくうちに、情がうつって好きになりすぎてしまうのですよね〜はぁ〜っ。
 さて、そうこうしているうちにあっという間に今日が来てしまいました。最後のレッスンは極力いつもどおりと思い楽しく終了したのですが、帰り際に「ボーイスカウトで行ったスキーのおみやげだよ!」と言ってTくんがお菓子の箱をくれました。そういえば、必ずどこかに行くとおみやげを買ってきてくれる子だったのでした。最後の最後までもうやめてしまう習い事の先生にまでおみやげを買ってきてくれるTくんのやさしい気持ちに本当にほっこりしました。
 今は男の子でも保育士になる子も多いし、また練習ができそうな環境になったら戻ってきてね!と言ったら「わかりました。」とにっこり。
 それにしても彼が来始めたばかりのころは、途方もなくいたずらっこで、しかも最初は全然ピアノに興味がない男の子でした。一番わたしに叱られた子も彼じゃないかしら!?(笑)初めの頃ママが好きな冬ソナの曲が弾けるようになるように…なんて無理やり習わされた!と怒っていた子が、こんなに音楽を楽しんでくれるなんて(笑)本当によかったです。
 時々顔を見せてね!と言ったらニコニコして帰って行きました。
 旅立ちの時です。