ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

新しい生徒

5月の半ばごろ

「娘のお友達の同じ3年生のミキちゃん(仮)が先生のお試しレッスンを受けたいそうです。」

と「ぼのぼの」大好き、通称「ぼのちゃん」のおかあさんからお聞きしました。

今年はちょうど新旧入れ替わりの時期で、ほぼ口コミのみで動いているうちの教室ですが、久しぶりに「若干名生徒募集」の掲示を掲げたのが4月半ば。

その後すぐ、GWに体調を崩してしまったので、掲示のことはすっかり失念しておりました。

もちろん紹介してくださったぼのちゃんのおかあさんも、わたしの体調のことを何より心配してくださっていて。

とても遠慮がちにお話くださったのですが…

ぼのちゃんが強力に

「絶対にうちの教室すごくいいから来なよ~♪」

と推してくれたとのこと。

ありがたいではありませんか!!

いつもならふたつ返事でとりあえずお試しにいらっしゃいませんか!?

とお誘いする所ですが…

わたしは当時あまりにも絶体調で躊躇っていました。

そうしたら、どうも先方にも何やら複雑な事情がありそうな話をちらっと伺い。

その後もミキちゃんのおかあさんからぼのちゃんのおかあさんに

「あの件はどうなりましたか?」

と何度もメールが来ると聞いていたので。

思いきってミキちゃんのおかあさんと直接コンタクトを取りました。

当時のわたしは何より出したい時に十分に声が出せず。

マスクをするとさらに息苦しくて、常に口を無駄にパクパクしているような状況で。

メロディーを歌おうにも歌える音域が極端に狭くなっていて。

いつもなら出る音域がまったく出ないし。

少し喋っただけで息があがってしまう状態で、途切れ途切れにしか話せませんでした。

不思議なもので、呼吸がうまくできないことがピアノのブレスにも影響してしまい、ピアノすらお世辞にも弾きたいように弾けているとは言えず、悪戦苦闘中でもありました。

今いる生徒たちとはそうはいっても関係性ができているので、そんな状況でも短い言葉でなんとか真意を伝えられるし。

歌だってお手本が機能しなくてもまあなんとかなっていましたが…
果たしてそんな状態で新しい生徒を取っていいのだろうか?

はじめて会ったその子の前で、先生のわたしが一瞬でも険しい顔をしていたら怖くない?

いろんなことを考えました。
そもそもわたしの病状は時が経ってもやはりわからないことだらけ。

大学病院では、検査の数値が思うように下がらなければ次は入院かも?と脅かされてもいて。
毎週病院へ行くたびに今日は家に帰れるのだろうか?とドキドキだったので。

そんな事情もお母さまにお話ししました。

そうしているうちに…ミキちゃんのおかあさまも重い口を開かれて…

びっくりな展開となりました。

ミキちゃんの4月まで習っていたピアノの先生もまた、原因不明の体調不良で4月からレッスンが止まっているのだというのです。

またもや原因不明案件(怖っ!!)

そんなに世の中、原因不明だらけなの?

心底びっくりです。

そのお教室の先生は、最初のひと月こそ

「しばらく休みますが自主練して待っていてください。」

だったのが…

5月にはさらに体調が思わしくなくなったそうで(涙)

「無期限のお休みに入ります」

と一報が入ったまましばらく止まり…
そしてあらためてこんなメールが来たそうです。

「いつになるかはわからないけれど、待ってくださってもいいし」

「新しい先生を探していただいてもいいです。」

実はその教室はうちの教室からもほど近い、40人からの生徒さんがいる楽器店系の先生です。

夏には発表会が決まっていて、その練習も始まったばかりだったそう。

すべてが止まってしまい、たくさんの生徒さんたちは途方に暮れているとのこと。

それはそうでしょうとも。

誰よりそんな大切な時期に、原因不明の体調不良に見舞われたそのお教室の先生。

連絡すら短くしかできない状態でどうにもならず、どんなにか辛かったことでしょう。

一歩間違えたら同じ状況だったわたしは、とても他人事とは思えなくて。

胸が痛くてどうにもやりきれない気持ちになりました。

そんな中ミキちゃんは、4月は一人で休まず毎日練習していたものの(偉い!勤勉!!)

5月になったらさすがにピアノから少しずつ遠ざかってしまい。

おかあさんももうはっぱをかけることに疲れてしまったとおっしゃってました。

これ以上自主練には無理があるね。

どうする?

と親子でとても悩んでいたそうなのです。

そんな話を聞いてしまっては…すぐにでも助けてあげたいのは山々です。

でもでもでも。

わたしもまたこういう事態なので(涙)

「他の教室へも遠慮なく先にお試しレッスンに行ってください。」

「そこでよい感触であればそちらへ行っていただいて全然構わないです。」
それでも決まらなければ、わたしもお試しレッスンができますが…

そのレッスン事態、体調によって日延べすることになってしまうかも。

本当に無責任で申し訳ないですが、そんな状況で良ければまたご連絡をください。

その時はぜひ、楽しみにしていらしてくださいね。と話しました。

その後同じ教室に共に通っていたお友達二人と一緒に

ミキちゃんは二つの教室のお試しレッスンを受け。

お友達はそれぞれ別の教室に入会を決めたそうですが

おとなしい性格のご本人はかなり萎縮してしまったそう。

どちらでも震えるほど緊張して、まだどうするか決められないでいるそうで。

5月中にペンディング中の二つの教室には入会するかどうかお返事しないとならないし。

「レイン先生のところへもやっぱりどうしても行ってみたい」

と娘が言ってます。

「ぜひぜひお試しさせてください!」

と連絡がありました。
聞けば、ぼのちゃん以外にもうちの教室を強力に推してくれた元生徒がいて。

それはあのめえちゃん(てめえのめえちゃんです!笑)だったのですって。
いつも「うちのピアノ教室はね~すっごく楽しい!」と聞いていたのですって、笑。

彼女はその後、スイミング教室で強化選手に選ばれて、毎日プールに行くことになったので、今はピアノには来ていませんが。

今でも習い事の中で

「ピアノが一番好きだった!!ああ楽しかったな!!」

と言ってくれているというではありませんか!!!

(ほんとかい!?とわたしはいまだ半信半疑、笑)

そんな「めえちゃん」がミキちゃんへと繋いでくれたご縁でもあるわけで。

これを断ったらあのめえちゃんとの格闘?乱闘?の日々

それでもなんとか近づきたくてお互い精一杯奮闘した時間を全否定することになるのでは?と思ったのもあって。

よ~し、やれることはやってみましょう!!と覚悟を決めました(笑)

5月の最終土曜日の朝、とても緊張したミキちゃんが、おかあさまと共にやってきました。

彼女にとってピアノ教室は

「厳しくて緊張していくもの」

という気持ちが強いそうで、多分一人では無理だと思うとおかあさま。

「一緒にレッスン室に入ってはダメですか?」

とおっしゃるので、どうぞと促して、一緒に入っていただきました。

狭い狭い防音室の向こう側におかあさん。

真ん中にミキちゃん。

手前にわたしという形でお試しレッスンがスタートです。

声がうまく出ないので、いつものように盛り上げて楽しんでもらって、気がつけばピアノの世界に引き込むようなレッスンができたかどうかはわかりませんが…

なるべくおもしろい曲をチョイスして、リラックスできるような曲を選んで初見でバンバン弾いてもらったり、連弾したりしました。

そうしたら、最初表情が硬かったミキちゃんが「おばけやしき」という子どもたちに超鉄板の人気曲を連弾したところで、大喜び。

なぜか途中のクレッシェンドで笑いが止まらなくなって、かわいい声で笑うのです。

ダメだ!笑っちゃう!と小声で言うので

「どうぞ~手を止めなければいくらでも笑って~」

とわたし(笑)

もう一回やりたい?と聞いたら頷いたので、2回目もまた始めましたが…

やはり同じところでげらげら笑うミキちゃん。

ああ楽しそう!これなら全然大丈夫じゃない?

きっともういけるな!と安堵したところで、なぜか向こう側(おかあさん)から聞こえるすすり泣き…

えっ!?なんで?

動揺しつつもとりあえず気づかないフリで流して(笑)

ひと盛り上がりしたあとで、前の先生の時の宿題の曲たちを弾いてもらいました。

発表会で弾くはずだった曲は「お人形の夢とめざめ」

昨今給湯器の「お風呂が沸きました~♪」の音楽としても有名になったこの曲は子どもたちに大人気の超定番曲です。

前の先生はきっとものすごく生真面目な方で、ていねいに細やかに教えてくださっていて。

ミキちゃんもその先生の思いを受けとめ、先生の期待に応えようときちんと勉強してきたのだろうなぁという超生真面目な弾きっぷりでした。

この楽譜を開けた途端すごく緊張が走ったのも感じ、プレッシャーが強いんだなとも感じました。

その他の教材もテクニック的な色合いが強いものが多くて、本当にピアノは親子にとって修行でもあったんだろうなぁと思いました。

後から聞いた話では、前の教室では小学校のうちは親御さんがレッスン室に共に入り、レッスンが終わるまで隣で共に見守るスタイルだったんですって。

いろいろなやり方があるんだなぁ~

ああだから、おかあさんがお子さんのレッスン風景をよくご存じだったのだなと腑に落ちました。

お試しレッスンのラストで、3年生の音楽の教科書の今年の歌「友だち」という曲を伴奏してあげて。

一緒に歌おう!と促しました。

あまりに心底楽しそうに歌うので、一番だけのつもりがフルコーラス弾いてしまったわたし。

ピアノも上手だけど、歌も人を心地よくさせるいい声で、とても上手ですね~

とおかあさんにお声がけしたら、ハンカチで涙を拭きながら頷いてらっしゃいます。

えっ!?待って??

気づけばおかあさまが号泣しているではありませんか!!!

いやいやいや。なぜに?と思いつつ。

ご本人は終始にこにこ。

おかあさんはなぜか号泣したままで、謎を残したまま、お試しレッスンは終了しました(笑)

帰り際。

わたしの体調もこんな風なので、絶対にうちに来てね!とは無責任で言えない状態です。

それでもよければ、上手に振替とか使いつつ精一杯努めます。

どちらにしても、先生がいないままで練習するというのはあまりに過酷なので。

前の先生がお元気になられるまでの繋ぎでもまったく構いません。

お役に立てることがあれば、どのような形でも対応します。

と言って別れました。

実際のところ、それから先自分がどんな体調になるのかまったく読めなかったし。

潔く全レッスンをキャンセルして療養に努めてらっしゃる先生と。

わたしのようにできる限りと言いつつダラダラと休まず続けている教室と。

どっちが正解かなんんて誰にもわからないわけで。

そういう意味でもお返事任せで考えよう…くらいの気持ちでおりました。

そうしたら。

彼女たちが帰って30分と経たないうちに

「レイン先生のところに決めました。」

「ミキが絶対ここにする!!と帰り道、ず~っと言ってたんですよ。」

と早速のお返事をいただきました。

そしてそこで覚悟が決まりました。

もしうちの教室がいつか、万が一にも立ち行かなくなった時

しっかりと養生されていた前の先生が復活されているかもしれないわけで。

その時まで大切にお預かりする…という気持ちで臨もうと思ったの。

今この時、彼女の音楽を引き出し、支えてあげる人は絶対に必要だし。

それがわたしかどうかは二の次三の次で。

「とにかく今に集中しよう」そう思えたので、結果オーライだなと思ったの。

それはほかの生徒に対してもおんなじで。

今日できることを今日やろう…

と、とてもシンプルな覚悟が決まった大事な日となりました。

その後、ミキちゃんのおかあさんから

「わたしが号泣していたのでびっくりされたでしょ?」

と連絡がありました。

そうなんです。その謎は解けていませんでした、笑。

ミキちゃんのレッスンをず~っと見て来られたおかあさん。

今までピアノ教室ではずっと娘が「きをつけ」の姿勢のまま。

いつもとても緊張していて、おかあさんもまたモヤモヤしていたのですって。

おかあさんはうちのレッスン室で、娘がレッスン中に笑い声をあげるのを始めて聞いたのですって。

そして「友だち」という曲を歌うミキちゃんの姿に心底感動されたとか。

うちの娘ったら、なんて音楽を純粋に楽しんでいるんだろう!!とうれしくなったそうなのです。

今まで修行のようなレッスンがあたりまえだと思っていたので

ムスメが楽しいかどうかなんてことを考えたこともなかったです。

わたしも「楽しんでもいいんだ!」ととても勉強になりました。

まずは何事も楽しんでこそですね!!とおっしゃってくださってわたしもうれしかったです。

そして。

「次回からはわたしの監督はなしで、娘一人でレッスンを受けさせてもらってもいいですか?」

とおっしゃって、全面的にミキちゃんを預けてくださることになりました。

実際のところ、わたしは3歳児4歳児とだって少しでも早く仲良くなりたいので、はじめから一対一でやりたい方なので。

これは願ったり叶ったり。

その後本格的にレッスンがスタートしてほぼひと月が経ちました。

今ではミキちゃんはわが教室のゲラ子ちゃんとして君臨してて。

おもしろいこと大好き。

おもしろい歌や曲が好き。

ほかの生徒のように、こっそり貸出用の本にドラえもんのイラストを描いたりもし始めていて。

めちゃくちゃ早く馴染んでいるなぁという感じ。

歌って踊れて弾けて小さい子を感動させられる保育士さんになりたいの!!と言ってます。

前の先生で生真面目に培ってきた基礎はもちろんそのままに。

「あれもやりたいし、これもやりたい!!」

「45分じゃ足りないよ~」

とまで言ってもらえるようになって、とてもhappyです。

わたし自身の体調もだいぶ戻ってきたので…

そろそろわたしも本領発揮できるようになれたらいいなぁと思いますが、また後戻りはしたくないので、しばらくはマイペースでいきます。
一時期は保育所のようだった教室ですが、今はいい感じにみんながちゃんとピアノの方を向いていて。

おもしろエピソードも量産されてます、笑。

そんな話もまた少しずつ書いて行きたいです。