ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

わかり合いたいのに その1

この話もとても長い長いスパンのお話です。

はじまりは昨年の夏休み直前のある日のこと。

あるお家のおかあさんから「せっかくの夏休みなので、うちの子たちにもう少したくさんピアノのレッスンを受けさせたいです。」という提案をもらいました。

そんな風に生徒の側から提案されたのは初めてでしたが、もちろん異論はなくうれしかったので、ふたつ返事で了承。

そのお宅は4人子どもたちがいて、当時は上3人が同じ日に習いに来てました。

なので、その曜日だけ一人15分ずつ長めにレッスンをして。

お家でもおかあさんの協力によりたくさん練習させてもらえたので。

夏休みのおしまいにはどの子も見違えるような大きな成果が上がり。

わたしもうれしくて、それぞれの子どもたちにレポート用紙3枚くらいずつ。

夏休みのレッスンの講評のようなお手紙を渡したりしました。

こういう達成感が時々やってくるから、ピアノの先生をしていてとても楽しい!!!なんて、悦に入っていたわけです。

ところが…

通常レッスンに戻ってひと月。

9月のおしまいごろに、同じおかあさんが

「ちょっとわたし疲れちゃいました。

来月はひと月、兄妹全員ピアノはお休みにしま~す!」とおっしゃって。

翌月、ひと月完全に一家でピアノから離れてしまったのです。

えっ!?どういうこと??

そうじゃなくても今の子どもたちは日々忙しくて、なかなか練習の時間が取れない様子。

その子たちが、まったくレッスンに行かなくなったらどうなるかは想定の範囲内でしたが…

おかあさんは自信満々に「これは相談じゃなくて決定事項の連絡です!」的なことをおっしゃるし。

お休み明けには4番目の妹もピアノに通わせます!とおっしゃって。

どうやらこのままやめてしまうつもりでもなさそうだったしで。

「なるべく少しでも子どもたちがピアノに触る時間を作ってくださいね。」

とお願いしてお休みに入りました。

さて、翌月。

想像通り、わずか数か月前の夏休みのがんばりからは想像もできないほど。

休んでいる間にピアノを忘れ、技術が後退してしまった3人を見て途方に暮れたわたくし。

それでも、上のお兄ちゃんたち二人はピアノ歴もそこそこ長く、なんとか少しだけ教本をさかのぼって復習して、勘を取り戻しました。

ところが…

3番目の幼稚園年長さんの女の子、めえちゃん(仮名)は、夏には両手ですらすら弾けるようになっていて。

超有頂天だったのに、次に会った時にはすっかり指の動かし方を忘れてしまい、その後退ぶりに本人が一番ショックを受けてしまったようでした。

そもそも。

年中さんでうちにやってきた頃のめえちゃんは、幼稚園でほとんど誰とも口をきけない子供で。

(最近そういう子たちが不思議と集まるようになってしまったうちの教室です。)

ピアノのレッスンを初めてからも、心を開いてもらえるようになるまでに、それはそれは苦労したのです。

最初は呼んでも答えてくれないし、歌おうと言ってもリズムを取ろうと言っても。

手遊びをしようと誘っても右手を出してと言っても。

口を真一文字に結んで、そっぽを向いているような子どもでした。

それが、だんだんに仲良しになって約半年。

8月の集中レッスンの頃は手をつないでお家まで送ってってと甘え。

道すがら幼稚園の話を聞けるくらいには仲良しになってました。

今思えば彼女だけじゃなく、わたしもやればできるんだな!と、めえちゃんが心を開いてくれたことを半分自分の手柄のように思い。

有頂天になっていたような気がします。

バカめ(笑)

ところが、お休みが明けてみたら…

「あれれ?前のイメージと違うぞ?」「前みたいに全然弾けないのはなぜ?」

彼女にとって「弾けない」は相当なストレスになったようで。

レッスンの回数を重ねるごとに、何をやっても裏目に出る状況になってしまいました(涙)

週に一回であれ、毎週顔を合わせることの大切さ。

もちろん一緒に音楽に触れ、ピアノを弾くことの大切さ。

実感したなぁと思ったわけですが。

時期を同じくして、年子の妹がレッスンに通い始め、兄弟姉妹の末っ子でまったく物おじしないし、とてもおおらかな4番目ちゃんに押されて、めえちゃんはさらにふてくされてしまい…

年を越えたあたりから、だんだんに目に見えて荒れ始めました。

はじまりはおかあさんの送り迎えを嫌がるようになったこと。
「ああ、年長くらいって反抗期ですよね?」なんて。

はじめは悠長に言っていたのですが、だんだんにエスカレート。
「一人じゃなきゃ行かない」と言い出したあたりから明らかにおかあさんが悪戦苦闘しているのがわかりました。
めえちゃんのお宅から我が家までは徒歩2分くらいですが、車が通る大きな道を横切らなくてはならなくて。

一時は、おかあさんかわたしがこっそりと見てないと言いながら見届けてました。
さらに「どうしても一人で行く!」から始まった反抗は次第にエスカレート。

次なるはなんと「てめえ」でした。

元々わたしのことを「先生」とは絶対に呼ばないと決めているようで(笑)

まっそんなことはちっとも構わないのですが。

わたしのことはいつも「あなたね~」と言ってました。

さらに不機嫌な時は「あんた」だったのが。

ある日突然、急に呼称が「てめえ」に変わりました。
お察しかもしれませんが「めえちゃん」は「てめえ」の「めえ」ちゃんです。

以前の名物生徒、うぜーよ姫を覚えてますか?

彼女もまた保育園時代、わたしが何度注意しても「うぜ~よ!」としか言わない時期があって(笑)

辟易したのを覚えています。

わたしは昔から多分「言葉」が弱点です。

スルーできず、まともに受けて堪えてしまうタイプなんだなと思います。
うぜーよちゃんも幼い頃は相当にむずかしい子でしたが、今は聡明でほがらかな大学4年生。

今でも時々お手紙やメールのやり取りをしていて。

「先生はわたしにとって恩人で親友だから!」とまで言ってくれてて感無量なのです(笑)

そしてそして。

ここから先も、めえちゃんと繰り広げられる死闘(大げさ、笑)の中で、何度も思い出されたのがうぜーよ姫で。

うぜーよちゃんとも相当苦労しながら、根気よくご縁をつないだ思い出があって。

それがやがて実を結んで、あんなに素敵に育ったという実例を見ているので(笑)

いずれ、めえちゃんともうぜーよちゃんとのように、仲良くなれたらいいなぁの願いをこめて。

「てめえちゃん」ではさすがにあんまりなので「めえちゃん」という愛称をつけました。

さて。

めえちゃんの「てめえ」はその後も次第に激化してゆき…
「ピアノ弾こうか?ここから始めるよ?」

と声を掛けただけで

「てーめぇが弾けよ!!」

ものすごい三白眼の怖い顔を作ってわたしに迫ってくる年長女子(笑)

そのうちに「てめえの右手のシミがキモイから今日はピアノなんて弾かない」とか。

なんで!?(涙)

「てめえは納豆くせーババアなんだよ~」とか。

おいおいおい!!!(笑)

あなたほんとに幼稚園児?的、ものすごい暴言を吐き始め。

叱ったり、笑い飛ばしたり、ある時は同調して一緒に悪い言葉を吐き合ったりもして(笑)

あらゆる手を使って方向転換を試みましたが、まったくいうことをきかず。

30年以上ピアノの先生をやってきて、子どもの心を掴むことだけは得意かもなんて思っていたのですが、まあ今回のことで、自信はこなごなに砕けました(笑)

正直、心のどこかでそんな自分を「調子にのり過ぎだったのよ!」

「ほんといい気味だわ」と自嘲しているわたしもいて。

表面上、淡々とピアノのことだけ極力考えながら、レッスンはしていましたが。

その実、徐々に体調も崩れ始め、さらにボロボロになって、正直少し投げやりになっていたかも??

それを彼女も察してしまったのかもしれません。
めえちゃんが凄いのは、おかあさんの前では決してそんな暴言は言わないところで。
ふたりっきりになった途端に「てめえ」が始まると言う賢さもある子なので。
ものすごく頭がいいんだなぁというのはわかるのですが。

感心している場合じゃない(笑)

誓って言いますが、わたしは彼女のことを決してキライと思ったことはないし。

むしろまだ年長さんなのに、妹には無条件でやさしいし。

お兄ちゃんたちにも常に気を配っていて。

上下に挟まれてほんと大変よね?よくやってるよ!とも思ってました。

ただ、そこまで荒れちゃうともう毎週が必死で、当時は好きとか嫌いとかという次元は越えてましたけど(笑)

その頃のわたしは、なんだか喉がつかえたり、息がうまく吸えなくて。

さらに胃が痛かったり、過食になって体重を増やしたり。

耳下腺炎になったりとさまざまな不調のデパートのようで。

もしかしてコロナ?とか、もしかして病気?とか。

今にして思えば、メンタルを病みかけだったのかも?と振り返っています。

後々、この「てめえ」は彼女が当時繰り返し繰り返し見ていたビデオの「名探偵コナン」の犯人役の口調を真似ていたことがわかりました。
実はめえちゃんのおかあさんもまた、いつもこんな口調で娘から言いたい放題言われていたそうで(笑)

とても悩んでいたそうでした。
その時にお互い知っていれば、笑い話にもなったのかも?ですが。

別々に悩んでいて、そのことがわかったのは数か月後、そろそろ彼女が「てめえ」に飽きて来た頃だったという(笑)

人生そんなもんだ!という感じでありました。

でも、その当時は感情を持て余すほど不愉快だったし。

「てめえ」と言われるたびに悲しい気持ちになっていたことを正直に白状しておきます。