ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

卒業

ちょうど10年うちに来ていた中学3年生の生徒がとうとうピアノのレッスンを卒業しました。
Fちゃんとは保育園から丸10年。彼女と会わなくなる日が来るとは想像もできないくらい、ずっとずっと仲良しだったので、来週からしばらくひどくさびしいことと思います。
最後のレッスンはバッハのインベンションとハイドンソナタツェルニー30番の29番だったのですが、本人ぎりぎりまで全然やめる気ではなかったので、30番を終えてあげることができなかったことがとっても悔やまれます。
妹が塾に行くこと、高校にお金がかかることを淡々とおかあさんに説明されて「だからもうピアノは卒業にしましょう」と静かに言われたと聞いたのが先々週。今の子どもたちはとても聞き分けがよくて、たいがいピアノを始めることを決めるのもおかあさんなら、やめる時期を決めるのもおかあさん。それでも文句を言わず「はい」と言えるのがスゴイなあと思います。
前回公立に落ちてやっぱり「もう月謝は払えません」と言われて泣く泣くやめた子もやっぱりそんなに抵抗することもなくやめていったんだっけ。
この間まであんなに高校生になってからの夢を語っていたのに。
ああ、お別れは突然にやってきます。
とはいえ、彼女はまたきっと戻って来そうな気がするし、本人に言ったら「わたしもそう思う。」とにっこり。
「自分で稼ぐようになったらまた来るよ。今度くる時はツェルニー30番のラストからね!!」と明るく笑ってお別れすることができました。
中学校生活の3年間、ずっと合唱コンクールのピアノの伴奏に選ばれ、最後、卒業式の校内ピアノのオーディションにも受かり、たったひとり「旅立ちの日に」を舞台で弾く役に選ばれた彼女。
保育園の頃にわたしがレッスンノートに書いたひとことが気に入らず、へそを曲げてしまい、しばらく口もきかなくなってしまったこと。
来て1ヶ月でいとも簡単に自然に楽譜を読めるようになり、両手で弾けるようになったこと。
その癖練習が大嫌いだったこと。
繊細で気難しくて、レッスン室の床に寝そべってストライキをしたかと思うと、ニコニコしながらやってきて、先生大好き〜と抱きついてきたこと。
「赤い屋根の家」が歌いたくて毎週うずうずと通ってきた低学年時代。
指使い通りに弾くのがどうしてもイヤだったこと。
折り紙で手裏剣を作ってきて、わたしにつくり方を教えてくれたこと。
オクターブが届くようになるやいなや無謀にも乙女の祈りにチャレンジして玉砕したこと(笑)
「帰り道が怖いから先生送ってって〜」・・・と甘え、ほんの100mの距離を毎週手を繋いで帰った小学生時代。
彼女と妹を連れて銀座まで楽譜の買い物に連れて行ってあげた時の緊張顔、いい楽譜に出会えて得意げになった顔。一緒に入ったマクドナルドで、どんなにおごってあげると言っても断って、持ってきたおこづかいの500円だけで姉妹で分けあって大喜びで食べてた姿。
わたしがインベンションがキライなんじゃなくて、インベンションの方がわたしをキライだと思う・・・なんて屁理屈をこねた日。
にもかかわらず、ある日突然「めざめたかも?」と急にがんばりだして、最後にはインベンションが大好きになったこと。
この曲「月明かりの夜道」っていうイメージ・・・って言ったのはインベンションの9番だったけ?うわぁ名言〜と思った日。
楽譜にFと名前を書いたあとに、小さく「WITH 翔」と書いていた乙女心。
あんなにショパンのワルツを弾くのを楽しみにしていたのに、今一歩届かずだったのが残念。
のんびり屋の彼女は音大に行く気は全然なかったみたいですが、かなり有名な食物科のある高校でパティシエになる勉強をするそうで、誰よりもピアノが上手なパティシエになる・・・と豪語してました(笑)
最後のレッスンの残り20分は、新しいものを始めるには短すぎる時間だったので、彼女が持っていた嵐の楽譜の「君のために僕がいる」を一緒に譜読み、片手ずつ弾きわけながら一回ずつ練習して、3回目にはもう両手でちゃんと楽譜通りに弾けるようになってました。
卒業試験はラクラクパス!そして歌詞にもあった

がんばるさ! 怖がらずに
君のために 僕がいる

この部分にかなり本気をこめて、こっそりと彼女に贈ろう。
恋の悩み、友達との喧嘩、ドラマの話、おとうさんとおかあさんに言えないような話・・・いろいろホンネで話せて楽しかったね。これからは毎週近況が聞けなくなるのはとっても残念だけど、たとえ簡単には会えなくなっても、彼女の行く末に幸多かれと祈ります。
思い出すのはピアノのこととその他のことと半々くらいだけど、そうやって10年間関わった時間そのものが宝物のような気がします。
そしてやっぱり、我が子であれ、生徒であれ、長きに渡り見守ることができるポジションにいられるというのは無条件にしあわせなことだなあとあらためて。
少子化だし、経済もなかなか回復しないし、だんだんに募集することがむずかしくなっているこの頃ですが、やっぱりもうちょっと新しい生徒を求める努力をしてみようかしら・・・と思い始めているところです。