ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

終末のフール

 紹介したい本はたくさんあるのですが、とりあえずここ1週間取りつかれたように何度も読み返していた本のことから書いておきます。
 この夏読んだ本はどれも印象的だったのですが、この本は特に何度も読んだ本です。

終末のフール (集英社文庫)

終末のフール (集英社文庫)

 前にも友達にも紹介されていたのですが、なかなか読み始めるきっかけがなかったのです。それが今回別の友達にまた「読んでみたら!?」と薦めていただいて、直後に本屋に入ったとたん、文庫コーナーで目に入って即買いしたという。
 今読むべき本は時としてあっちからやってくる感じがすることがありますが、この本はまさしくそんな感じ。とっても読んでみたかったテイストのど真ん中なお話でした。
 この本のすごいところは、終末(世界の終り)が現実にやってくることがわかってパニックになる人たちのことをドラマチックに描いているのではなくて、世の中の終りが知らされたパニックを少し過ぎて、ほんの少し落ち着いて(あきらめて)きてからの人々の日常を描いていることです。
 恐ろしい略奪や殺戮の年月を経て、ちょっと小康状態になっているタイミングの物語です。
 いろいろなことを乗り越えて生き残ってきた人たちだから、それぞれの「生きることの意味」とか価値観の違いが鮮明になっていて、登場人物ひとりひとりが本気で自分の人生(余生とも言えるかな)と向き合っている姿が浮き彫りになっています。
 一章ごとに異なる主人公が描かれていますが、同じマンションを舞台に繰り広げられる人間模様なので、他の章に出てきた人がちらっと姿を見せたり、前の章の主人公のその後がさりげなく描かれていたりして、そんなことを見つけながら読むのも面白かったです。
 わたしが特に印象的だった話は、「鋼鉄のウール」と「籠城のビール」と「演劇のオール」でした。
 ちょっと乱暴にかいつまんで書くと、「鋼鉄のウール」はどんなに世の中が変化しようが壊滅的な状況になろうが淡々とひたすら練習を重ねるボクサーの話。
 「籠城のビール」は妹の仇を討って殺してやろうと思って押し入った家で、殺すつもりだった家族と様々なやりとりをするうちに、お互い励ましあって双方終末のその日まで生き延びてやろう!と誓い合うというステキな話。
 「演劇のオール」はちょっとだけ「ホームドラマ!」に似ていると思ったのは、疑似家族っぽい展開になる話だからかもしれません。ちょっとうまくいきすぎな感じもありますが、たとえ終末が間近に迫っていたとしても、あんな風に明るく、老若男女問わず、その時まわりにいる人たちと肩を寄せ合って笑っていられたらいいなぁと思います。
 最も印象に残ったせりふは、鋼鉄のウールのボクサー、苗場さんの言葉で

「明日死ぬとしたら生き方が変わるんですか?」
「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」

 この間からふとした時にこの言葉や、本の中のワンシーンが頭の中に浮かんできて、何度も何度も本を繰ってしまいます。
 わたしは結構好きな本は何度も何度も読み返すタイプなのですが、この本もまたそういう一冊になりそうです。
 ちなみに…
 この本を読み始めてから、ずっと前にも似たような本を読んだことがあるなぁとずっと思っていて、どうしても思い出せなかったのですが、不意に先日思い出しました。
 新井素子さんの「ひとめあなたに…」です。
 多分学生時代だか就職したばかりくらいの時に読んだ本ですが、思い出してみると設定がよく似ています。
 こちらはまさしく世界が滅びる発表があってすぐのお話で、本としての切り口や向かう先は全然違いますが、「週末のフール」を読んだことで、いろいろと過去の記憶もよみがえったり、同じころに読んでいた他の様々な本たちの記憶もよみがえって、そんなことも面白いなあと思いました。

ひとめあなたに… (創元SF文庫)

ひとめあなたに… (創元SF文庫)