ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 女の一代記シリーズ第2夜〜越路吹雪

 祖母が越路吹雪さんの大ファンだったので、このドラマを楽しみにしていました。わたしが生まれた頃には越路さんはすでに大スターだったし、祖母の部屋でレコードやカセットテープで一緒に歌声を聞いた覚えがあるのですが、テレビでオンタイムで歌っている映像を見たことはなかったと思います。
 なので、越路さんの素顔については何も知らず、ドラマを見て驚くことがいっぱいありました。中でも大スターでありながら、こんなにお酒やタバコ、睡眠薬に溺れなければならないほどプレッシャーを感じていたとは、本当に驚きでした。わたしが知っている彼女は、誰よりも堂々としていて、余裕たっぷり。子供心にも彼女の歌は軽々しく流して聞けない感じ、「愛の賛歌」などは、心をかき分けて歌が心に直接入ってくるような感じを覚えながら聞いていたのでした。
 祖母のカセットには「サン・トワ・マミー」「ろくでなし」「オー・シャンゼリゼ」なんかも入っていて、これらはお洒落で洗練されていて、他の当時の日本の歌手とは一線を画しているようでした。彼女の半生をあらためてドラマで見ると、出るべくして出てきた大スターだったのだとあらためて思います。もちろん越路さん本人が何よりすばらしいのですが、彼女の成長のために私財を投げ打って海外へ勉強に行く費用を出す人がいたり、愛情あふれるブレーンもたくさんいて、いろいろな意味で「古き良き時代」だったんだなあと思います。
 ドラマで彼女を演じたのは、今や飛ぶ鳥も落とす勢いの天海祐希さん、彼女は宝塚の後輩でもあるので、さぞかしやりがいのある役だったことと思います。オットなど、「彼女が演じるなら」という理由で一緒にドラマを見ていました。
 わたしはと言うと、岩谷時子役の松下由樹さんが、全編を通して特に印象的でした。松下さんと言えば、最近はコミカルな演技をするイメージが強くて、抑えた演技で穏やかに、しっかりと越路さんを支える岩谷さん役はとても新鮮です。岩谷さんは敏腕マネージャーでありながら、いつも謙虚でいつまでもお嬢さんっぽいイメージ、ご自身も超売れっ子作詞家になっても、ちっとも高ぶったりえらそうになるところもなく、とても魅力的な人物でした。
 それはそうと、このドラマを見て、翌日のMステを見たら、なんだか失礼ながら、とてもストレスを感じてしまいました。なんだかなあ。日本の音楽業界、今のままでいいのでしょうか。アイドルであれ、ビジュアル系であれ、マルチタレントであれ、俳優が本業の人であれ、先入観は持ちたくないし、気にしないほうですが、音楽番組に出る限り、レベルの高い歌を歌って当然・・・なんて期待してはいけないのでしょうか?!「ヒットチャート」や「好きうた」で上位にたくさん入った歌手、音楽番組にたくさん出る人、CDの売上なんかが今の日本人の音楽に対するニーズの象徴だとしたら、わたしの方が少数派でおかしいのかもしれません。
 ところで、わたしにとって、越路吹雪さんと言うと、祖母とセットになって父のことも思い出します。祖母は母の母なので、父にとっては義母にあたるわけですが、祖母が「こんなテープがほしいなあ」とか、「この曲は売ってないんだろうか?」などとちょっと口にした一言を、父はいつも気にかけていて、一生懸命探してきては祖母を喜ばせていました。実の娘の母が「どうせ見つからないわよ」とあきらめていても、父は根気良くこっそり探し続けています。本人さえ忘れた頃に、言葉少なく、「見つかりましたよ」と祖母に渡したりします。
 「アンタのおとうさんは、本当に優しいひとだねえ」なんてつぶやく祖母のとなりで、一緒にカセットを聴きながら、子供心にもそんな父がとても誇らしかったし、小さなことで、祖母を喜ばせる父を見るのがなんだかとても幸せでした。
 ドラマ本編もよかったのですが、ドラマを見たことで、いろいろなことが走馬灯のように思い出され、素敵な時間を過ごせました。父に電話でもしようかな?