ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」

 日参している大好きなサイトさんで、同じように江國香織さんの本を読まれていた方がいて、同じ本を探したのですが、見つからなかったので、目に付いたこの本を買って読んで見ました。

泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)

泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)

 この本は短編で、10のお話からできています。先週読んだ「東京タワー」と同じように、やっぱりこの小説に出てくる女性たちも恋愛にどっぷり首までつかっているような人たちが主人公です。前にも言ったとおり、わたしはそういうタイプではないので、共感しにくそうなのですが、そうでもありません。短編なのでそんなにしつこく感じないし、秋の入り口という季節も手伝ってか、適度に感傷的になりながら、すらすらと読み終わってしまいました。
 それにしても彼女の選ぶ言葉たちは、独特ですがすごくステキです。タイトルの「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」も不思議だけれど、これをタイトルにするセンスが好きです。
最後に山田詠美さんが解説として書かれている中で、

濃縮された物語がある。

とおっしゃっていますが、まさしくそんな感じがします。途方もなく濃い味のついたお話たちです。また、山田さんは

「字、なのに・・・!?」そう呟いてしまう時、無機質な活字から五感のすべてを刺激して、くっきりとひとつの状況が浮かび上がるのである。

とも書かれています。とてもとても納得してしまったので、思わず引用してみました。
 確かにそうなのです。彼女が短編として切り取ったお話は、写真のように情景に色がついてみえたり、お話の世界の外気の冷たさを肌にちくちく感じたり、オレンジの香りやべたべた感がそのまま、自分が今体験しているかのように迫ってきたりするのです。これらを味わうことで、「わたしにはこんな恋愛はわからない」とあきらめそうになりかけても、「せつなさ」や「苦しさ」や「溢れるばかりの愛情」が、どこか近しいものとして感じられるような気がします。
 今回の短編集の中では、特に「うんとお腹をすかせてきてね」と「サマーブランケット」と、「動物園」というお話が好きです。どれも一見とてもへんてこりんな設定だし、日常にはありそうもありません。それでもなんだか理解できそうな気さえしてくるのは、まさしく五感にフルに訴えかける細かい描写に頭ではなくて、感覚が共鳴してしまっているからだという気がします。脳で言えば、左脳ではなくて右脳が反応している感じです。
 10このお話のなかのいくつかの物語については、結局のところ、よくわからないやというものも含まれていました。でも、そもそも全部理解の範疇なんていう物語が果たして面白いのでしょうか。作者はすべて理解されることを期待して書いているのでしょうか?彼女の文章に浸っていると、「わかってもわからなくてもいいと思うよ」(by ファンタスティポ)という気持ちになってきます。わかったふりをしなくても、わからないものを排除しなくても、心地よい気持ちになれればそれでいい、なんていう気持ちになっているわたしです。