ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 きよしこ

きよしこ (新潮文庫)

きよしこ (新潮文庫)

 昨年末、12月の中旬頃から読み始めたのですが、最後まで行かないうちに何度も何度も読み終わったページを読んでしまうので、結局読みきるのに年をまたいでしまいました。
 物語は、吃音のきよし少年を軸に、転校が多かった彼の様々な学校での生活を切り取った短編からなっています。
 大きな事件が起こるわけでもなく、ドラマチックな恋の物語でもなく、淡々とただ淡々とできごとが連なって行くのですが、なぜか心を捉まれて、何度も読まずにはいられませんでした。泣かせてやろうという物語でもないし、感動で涙が止まらないということもないのですが、誰かのひとことに共感したり引っかかったり、なぜか心が温かくなったり、「イヤなヤツだなぁ」と思うのに、なぜか憎めない子がいたり…いろいろな意味で何度も読まずにはいられない本になりました。
 好きな作家さんの誰かを思い出す…と思ったら灰谷健次郎氏でした。繊細に人の心の動きを追いかけている、その空気感がよく似ています。
 彼が転校が多い子で、わたしもそういう子だったので、行く先々で新しい環境に馴染むのに苦労したり、よそ者の自分の身の置き場に困ったりしている描写が自分のときのそれとも重なって、だから余計にいろいろなことを考えてしまったのかもしれません。
 吃音については今までに身近にそういう人がいなかったので勉強不足なのですが、アタマの中に言いたいことがたくさん溢れているのに、どうしても口に出して言えない苦しさがとても伝わりました。
 必死に言い換える言葉を探すのに見つからない時の哀しさとか、まわりの気遣いに身の置き場を無くして縮こまってみたり、かと思うと感情の爆発とともに、盛大にどもってしまった時の本人の気持ちとか言わせてしまった周りの後悔とか…時に母の気持ちになったり、友達の気持ちになったり、本人の気持ちになったりしながら、苦しいと思うのに読むのをやめられませんでした。わが子もそうですが、人知れず大きなものを抱えている子は世の中にいっぱいいるのです。
 そういう少年の物語でありながら、物語を通して流れている空気は決して暗いものではありません。人生そんなに甘くないけど、そんなに捨てたもんじゃないよ…みたいな。
 ちなみに中でも好きなお話は、タイトルになっている少年が、決して明るい物語ではないのに、なんとも魅力的に思えてならなかった「ゲルマ」と表題作の「きよしこ」そしてラストが大好きな「北風ぴゅう太」かな。
 途中からこのきよし少年が筆者の少年時代であることを知り、親近感が増しました。必要に迫られて一生懸命言葉探しをしながら生きてきた少年が、現在は「言葉」で人を励まし、感動させる職業に就いていらっしゃる。なんて励まされる素敵な現実であることよ。
 彼とわたしが同世代で、父の転勤により転々としていた場所がほど近かったこともあるかもですが、一気に重松清氏に興味を抱き、遅らばせながら彼の著作をいろいろと読み始めました。