ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

騒音歌舞伎(ロックミュージカル)「ボクの四谷怪談」

少し前の話になりますが、友人のあきこちゃんに誘われてショコラ嬢と3人で蜷川さんのお芝居に行ってきました。
場所は渋谷のシアターコクーンです。
出演者がこれでもかと豪華な舞台で、主演の民谷伊右衛門佐藤隆太さん。
脇を固めるメンバーも、小出恵介さん、勝村政信さん、栗山千明ちゃん、谷村美月ちゃん、三浦涼介くん、麻美れいさんなどこれでもかととっても豪華です。
さらにさらに、歌舞伎の尾上松也さんという方がお岩さんの役で出られるとのこと。
どんな四谷怪談になるのかとっても楽しみでした。
今更ながらの感想を書きますが、舞台好きというほど舞台をたくさん見ているわけでもないので、超素人感想です。
さらに公演は続いていますが、続きはネタバレ全開です。
検索でいらした方で、万が一まだご覧になってらっしゃらない方はどうぞ気をつけてくださいね。
「ボクの」四谷怪談なので、多分普通の四谷怪談とは趣を異にしているのだろうと思っていましたが、やはり全然違っていて、お皿を数えるシーンもなかったし(失礼しました。それは番町皿屋敷ってお友達のK嬢につっこまれました。わっはっは。なんで間違えたんだろう。おかしすぎ。大変失礼しました。Kさん、ありがとう!!)「恨み」が前面に押し出されることもなかったです。
そもそもわたしは頭の回転が悪いので、いつも蜷川さんのお芝居のテンポに慣れるまでに時間がかかるのですが、今回はわりと大丈夫でした。
蜷川さんのお芝居では、今しゃべっている方たちの周りで常にたくさんの人たちが動いていて、時に芝居の流れと関係ない会話をしたりもし、街の喧騒の中に身を置く人間模様が立体的に映し出されると感じることが多いのですが、今回も常に舞台上はごちゃごちゃ騒音に満ちてました。
とにかくそのさまざまな音が暴力的に聞こえたり、破壊的に感じたりもしましたが、そこがおもしろさでもあり・・・いろいろ斬新でした。
わたしたちは1階のかなり後ろの方でしたが、前の方では普通に役者が通路を行き来し、客席から登場したり、縦横無尽に動き回って空間を思いきり大きく使ってました。
ミュージカルなんだから、もちろんみんな歌を歌いますが、ミュージカル調というより、ちょっとオペラちっくな歌詞の載せ方・・・というより、外国語を翻訳してそのままメロディーに歌詞を乗せたような歌だなあと思いました。
誰かが歌うとモニターに歌詞が浮かび上がるのですが、このテロップがなければなんて言ってるのかわからなかった部分もあっただろうし、テロップで漢字で読むとなるほろ〜と納得!というところも多々ありました。
ロックミュージカル・・・というよりは、全編これ歌謡曲ちっくな歌な感じがしたのは、歌詞がものすごく生活感あふれたなつかしい感じなのもあるのかな?
むしろ昭和枯れすすき・・・とか、あるいはオットが持ってる昔の生活感あふれるフォークのカセットとかで聞いた音を思い出したかも(笑)
むしろどこが「ロック」かというと、「ロック魂」というような、精神的な意味合いなのではと思いました。
最後の方の長セリフで伊右衛門が「俺のロック!!」と拳を振り上げて言うところがあって、ああ、なるほど・・・と思いました。
なんていうのかな、あの時代特有の頭でっかちでなまっ白い感じの青年が、世間と闘っているようで、実は自分と闘ってる・・・みたいな。おっといきなり核心に触れてしまった(笑)この話はもうちょっと後で。
この舞台では、江戸時代と70年代?とおぼしき時代設定がなぜか一緒くたになっていて、主人公の伊右衛門さんが、Tシャツ姿に帯刀して、上野の街で物売りをしていたりします。
ぶらぶらしている若者、ギラギラしている男、可憐な少女、セーラー服で登場するかわいい女の子が夜は客を取っていたりして、毒々しいシーンもなかなかに下卑た笑いを含んで(笑)々散りばめられています。
そういうのがダメな人には全然ダメな世界かも?とちらっと思いました。
もちろんわたしはオトナなので全然大丈夫ですが(笑)ちょっと娘と一緒に見るには居心地が悪いかも(笑)
なぜか劇中で何人もの人が誰かを「殺してしまった!!」と思い込むシーンが出てくるのですが、実は誰も殺してないし、殺されてはいません。
その勘違いのシーンや、なんとか取り繕おうとするシーンもイチイチ笑いに変えられ、それぞれの心に潜む弱さやずるさが見ていてちくちくします。
劇中にお岩さんが二人いて、どちらもとても印象に残りました。
第二お岩さんの明星真由美さんは歌もとってもうまかったし、印象的でした。
勝村氏扮する多弁なラジオのパーソナリティーが、このふたつの時代を真ん中で仕切ってる感じなのかな?
スイッチングするように、二本立ての舞台を右に、左に操ってる感じに見えました。
ざっと個人的な感想を言うと、佐藤隆太さんは、いつもの熱血青年を封じて、何に対してもやる気のない今時(とはいっても70年代ですけど、笑)青年を違和感なく演じてました。
小出くんもまた、等身大の実直な青年役とはほど遠い、なんだか感じの悪いオトナの役ですが、これもまたすごく新鮮。
歌はあんまり・・・でしたが、巧さを強調する芝居ではないのだし、もっと思いきってドカン!といってもよかったかも(笑)
劇中に「ヘタクソのくせに。その1曲しか歌えないのかよ」的なセリフを投げられるのですが、心の中を見透かされたような気がしてゲラゲラ笑ってしまいました(笑)
個性的なメンバーばかりだったのに、中でも圧倒的な存在感があったのが歌舞伎の尾上松也さんで、彼は歌もびっくりするほど上手だったし(正統派な巧さでした)立ち居振る舞いといい、お岩の身のこなしといい、ものすごく惹きつけられました。
お岩さんの女性の動きや心情を表現する芝居もさすがでした。
鏡を見るシーンでは、その鏡を照明のように使っていて、こちらをピカーっと照らす演出があるのですが、ここはとても斬新な感じがして面白かったです。
あらゆる場面がいろんな意味で異種格闘技という感じですが、尾上氏の存在なくしては、この舞台の成功はなかったかも。
同じく、歌が巧くてうならされたのが栗山千明ちゃん。
テレビで見てたのよりずっと美少女で、お芝居も素敵でしたが(彼女、舞台のお芝居の方が上手で慣れてるのかも。)なんといっても歌声が素晴らしくてとっても魅力的でした。
彼女と絡む役の勝地くんは、何度かテレビでも舞台でも見てますが、今回が一番魅力的に見えました。
千明ちゃんとのデュエット曲は、茶の間でちゃぶ台のごはんを挟んで歌われるのですが、ラップみたいな合いの手みたいなリズムの遊びが入っていて、ここが圧巻!
谷村美月ちゃんは13歳の役ということもあったと思いますが、ひたすらかわいらしくて、こういう引き出しもあるんだとびっくりしました。
そして、勝村さんはテレビで見たまんまだ!!と思いましたのことよ(笑)
さらにさらに、友人たちが最近はまっている元仮面ライダーの役の三浦涼介くん。
この方については、何度も話を聞かされていたものの、まだその魅力の芯に触れたことがないと感じていたのですが、今回のお芝居を見て少しわかったような気がしました。
彼は東京キットブラザースの三浦浩一氏と純アリスさんの息子さんだそうですが、なるほど〜お芝居を見て納得しました。ちょっと北島マヤが入ってる(笑)
彼はとってもなりきり型の俳優さんで、出てくるたびに印象が違い、もっといろんなお芝居を見てみたい人のひとりになりました。
役柄では主人公伊右衛門に言い寄るゲイっぽい不思議な役ですが、キラっと光る才能の片鱗が見えた気がしましたよ。
途中、第二のお岩さんが臨終の場面でワーグナーワルキューレを歌いました。
ワルキューレは車のCM曲にもなってるし、多分聞けば誰もが知っている曲ですが、とてもいい声で朗々と歌っていて、ここは笑いが起きるところ。
でも、なぜこの曲だったのか?・・・ずっと疑問を持ちながら帰ってきて、そういやワルキューレってどんな話だったっけな?と紐解いてみて、わかりました。
この歌劇の中身が栗山さん扮するお袖ちゃん(伊右衛門の妹)と勝地くん扮する権兵衛の恋にリンクしているのです。この二人が愛し合い一緒に暮らそうと結ばれたとたんに、彼らが実は兄妹だったことを知るという内容。
歌劇『ニーベルングの指環』四部作の中の一つ、ワルキューレにも近親相姦の話がテーマになっているのですよね。
このあたりとリンクさせていたんだなぁと今になってわかりました。
ほかにも使われた曲やら歌の歌詞やら、もっと教養があればたくさんのことがいろいろと繋がっているのかも?と思ったのですが、読み取れただけの内容でも十分にその世界観は楽しめた気がします。
常にあれこれ苦悩する主人公伊右衛門は、後半どんどんお岩の影におびえ、妄想に取り憑かれていきます。
いつも付きまとわれる幽霊は、なぜか悲しそうな顔をしてこちらを見ているだけで、何かを語りかけてくることもなく・・・
それが更に伊右衛門をイラつかせます。
もう狂ってしまいそうだ・・・そう思った時、怖くてならない「お岩」だと思っていたその人は、実は自分自身の姿だということがわかります。
このあたりの種明かしは、佐藤隆太くんのものすごい長台詞によって、一気に説明されるのですが、ここのシーンはちょっと強引だったけれども、圧巻でもありました。
その壮大なシーンのあと、最後の方で舞台の後ろの扉が開かれます。扉の向こう側は劇場の外。まんま渋谷の街の景色です。
ラストシーンはオンタイムの渋谷の通行人や出入りする搬入のトラック、犬のお散歩の人、女子高生など、たまたま通りすがった人やモノの景色がそのまんま舞台背景になるのですが、この演出にもうなりました。
2012年の渋谷は意外にも結構明るくてすっきりしていて・・・舞台装置よりずっと清潔感あふれていて、急にすっきりとした青空バックみたいになって、妙に清々しく感じられましたよ。
実は来月、歌舞伎を見に行くことになりました。
初歌舞伎です。
ここで、尾上松也くんを見たことで、さらに歌舞伎の世界に足を踏み入れるのが楽しみになりました。
また新しい扉がひとつ開かれるといいな。
今月末には「いきものがかり」のライブに行くことになっているし、来月には玉置さんブルーノートライブと歌舞伎。12月はジョンレノンもあるし、だんだんにポツポツと予定が入ってきました。
今年の秋ははじめこそちょっと寂しいなぁなんて思っていたけど、なかなかどうして(笑)
実り多き、収穫の秋を過ごせたらいいな〜と思っておりまする。