ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 食堂かたつむり

([お]5-1)食堂かたつむり (ポプラ文庫)

([お]5-1)食堂かたつむり (ポプラ文庫)

 以前にちらっとこの本を読んでいると書いたら、いろいろな方からさまざまなリアクションがありました。
「とっても気分よく読んでいらっしゃるみたいですが、途中ちょっと気をつけた方がいい箇所があります。」とか「がっかりしないで読めますように」とか、「覚悟だけはきめておいた方がいいかも。」とか「王様のブランチで紹介されたので読みましたが…」とか「大好きから大嫌いになったわたしのような者もいます。」とか。
 読んでいると書いただけで、そこまでリアクションがあるのは逆に珍しいのでアマノジャクなわたしはとっても興味が沸いてさくさくっと読みました(笑)
 結果、みなさんが言うほど嫌悪感も抱かず読めましたが、言いたいこともなるほどわかる…といった感想を持ちました。
この本は、よくも悪くもある意味イソップとかグリム童話とか、おとぎ話テイストなんだなぁというのが読み終わってすぐの感想です。
すごくsweetな部分とdarkな部分を両方持ち合わせていて、本当は怖い。
世の中、見かけと本質が違うこともたくさんあって、一見下品で底の浅い世界に思えていたものや人が、実は純粋でとても深かったり。複雑にこんがらかってほどくのは不可能と思えたものが、実はそうでもなくて、ある日突然するするっとほどけたり。
 わたしみたいに長期間断続的なダイエッターをしていると、どうも「食べる」ということに対してあまりよいイメージを持っておらず、食べてしまったあとで罪悪感を感じたり、自分に負けた!みたいに思うことが多々あるのですが、そもそもそういう考え方は絶対におかしいということを再確認しました。わかっちゃいるわけですが。
食材をいただく「いただきます」ということ、食物連鎖、旬のものを食べるということ、楽しい気分で料理と向き合わなくてはおいしいものは作れないという考え方、素直になるほどと思うこともたくさんありました。
総じて言えば、amazonのレビューで多くの人が語っているほどひどい話だとは思いませんでした。
「品がない」とあちこちで酷評されていた部分についても、そんな見かけの人たちの、きらっと光る純な部分とか内に秘めた真摯な思いと裏表のように書かれていたりして、わたしはそんなにイヤじゃなかったです。
とてもとても抽象的な感想ですが、続きを読むからはもうちょっと突っ込んだネタバレ的感想を。まだ読んでる途中と言う方は、読み終わってから読んでくださいね。
 というわけで、わたしはそんなに嫌いな文章ではなかったわけですが、読み手がどこに引っ掛かるかと言えば、やっぱりペットを殺して食材にしてしまうシーンが延々書かれているところだと思います。
わたしは豚にせよにわとりにせよ牛にせよ、食べるからにはその残酷で途方もなく手間のかかる作業を代わりにひきうけてくださる方々がいるわけで、その部分を見ないふりをして「かわいそう」とか「かわいいのに」とかいうのはおかしいと思うタイプです。
一頭を解体したら、隅々まで食べられるところは全部食べるということは、命を提供してくれた生き物に対する礼儀だと思うし、感謝の示し方でもあるとも思っています。
食べることによって、わたしたちはその命をいただいて自分の生きる力をもらっているわけだし。
 ただし、ものすごくかわいがっていたペットとなればちょっと話は別です。
勝手に途方もなく手がかかったものを食べさせてとことん溺愛したかと思うと、自分たちの都合とタイミングで突然殺して食べてしまうというストーリーには、どうしても共感しかねるものがありました。
少なくともエルメスは食べることを想定して飼っている家畜ではなかったのだし、お肉になったエルメスが喜んでいるようだとか、守られているみたいに感じると言った擬人的な表現にはかえって違和感を感じました。
そこのところ、エルメスの息が絶えるまでのあたりは斜め読みしちゃいましたが、その後の解体のシーンは気持ちをさっさと切り替えてお肉屋さんの気持ちになって、結構興味深く読みました。
最後に窓にぶつかって息絶えたハトをお料理するシーンは、逆にそんなに違和感なく読みました。「命をいただく」というのは本来多分そういうことなんだろうと思ったのです。わたしがやってみるか?と言ったらきっとできないですけれども(笑)
一日ひと組のお客さんだけでは店が成り立たないだろうとか、食材が見つからない時は?とか、いろいろと突っ込み始めてしまったら楽しく読めないので、あえてそういうところはメルヘンだと思って読みました(笑)
もうちょっとお客さん側のリアクションとかお料理の描写が細かいと、もっと楽しく読めそうだとも思いました。
文庫の最後についていた番外編「チョコムーン」は男子カップルのとってもやさしくて暖かいストーリーです。
食堂かたつむり」の心のこもったお料理のおいしそうな描写と、主人公ふたりの暖かい空気がお互いにお互いをひき立て合っていて、とっても好きなお話でした。
 本編では赤かぶ農家での話とか、ふくろう爺と母の娘を思う気持ちとか、倫子の宿敵ネオコンがお茶漬けを食べた時の描写とか、おばあちゃんのぬか床の話とか、結構好きな箇所がありました。
 DVDになったら映画も見てみたいなあと思っています。先に映画の舞台あいさつのワイドショーとか見てしまったので、主人公の女性のイメージがすっかり柴崎コウちゃんで読んでしまったので、彼女がどんな風に演じるのかも見てみたいなあと思っています。