ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 狐笛のかなた

狐笛のかなた (新潮文庫)

狐笛のかなた (新潮文庫)

 読めないなあと思っている時はなかなか重い腰が上がらないのに、1冊読み始めるとどんどん調子に乗って次々と読めるのが本の不思議なところです。さっさと2冊目も読み終わりました(笑)
 この本は「守り人シリーズ」で有名な上橋菜穂子さんの本です。児童文学のくくりになるのかも?ですが、大人が読んでも十分楽しめるお話でした。
 わたしはそもそもファンタジー小説が大好きで、小学校のころからずいぶんハヤカワ文庫のお世話になってきました。
妖精や魔術師の世界の中を旅したり、そこで起こる様々な出来事を反芻したり、お話のことを思い出しながらピアノを弾いたりするのも大好きな子どもだったのですが、ひとつだけ不満だったことがあって、それはなかなかわたしが思う「日本人の琴線に触れる作家さん」がいないことでした。
 たとえば誰もがよく知っている「指輪物語」にせよ「ハリーポッターと賢者の石」にせよ、とっても好きな話なのですが、日本的な香りはしません。それでももちろん十分に面白いのですが、常に何か物足りない感じが残っていたのも事実で、もうちょっと現実とファンタジーの世界の境界線の薄い感じ、近い感じを味わってみたくてならなかったのです。
 そんな不満を見事に解消してくださったのが、上橋さんで、彼女が現れてからというもの、ますますファンタジーが好きになってきたわたしです。
 そして彼女の作品の中でもこの「狐笛のかなた」は特に和の雰囲気があるお話で、読んでいてとても風景の浮かぶ素敵な物語でした。表紙の挿絵が深い緑の森の中の絵で、青い光を背にすっくと立っている一頭の狐(きつね)が描かれているのですが、すでにその風景だけでなつかしいようなもの悲しいような、たまらない郷愁を誘われます。
 この狐の正体はこの世と神の世(あわいと言います)の両方にいることができる野火という霊狐です。
 この霊狐の野火と小夜という女の子、いずれ国を背負う高貴な生まれの男の子小春丸の三人を軸に、彼らの出会いから運命がどんどん転がっていくさまが描かれているのですが、その哀しくもせつない物語を彩る様々な景色や登場人物の素敵なところがとっても日本的、日本人的で、だからこそ、こんなに心の琴線に触れるお話なのかもしれないと思いました。
 物語そのものはそんなにややこしい話ではなくて、むしろまっすぐでわかりやすいお話の部類かもですが、読み終わった今もなお、心のなかに景色が残っているかのような素敵な余韻が残るお話でした。  
PS:日本人の書いた日本的な雰囲気を残したファンタジー…そういえば、ひとつだけ大好きなシリーズがあったことを思い出しました。
それは佐藤さとるさんの「だれも知らない小さな国」をはじめとするコロボックルシリーズです。図書館で何冊も借りたことを思い出しました。挿絵も含めてとっても好きだった覚えがあるのですが、これのことをすっかり失念しておりました。