昨年はあまり本が読めなかったので、今年はたくさん読めたらいいなあと思います。
子どもみたいな言い方をすれば、本の中で簡単に行けない場所に行ったり、日ごろできない経験ができるのは楽しいし、自分とは全然違う人の人生を追体験したり、違う立場の人の気持ちになることはとても大切なことだと思うのですよね。
こんな世の中だからこそ自分の中だけに凝り固まらず柔軟な頭がほしいです。
今年こそたくさん本を読もう。硬いのもやわらかいのもいっぱい読もう。
というわけで、今年になってから読んだもの。最初の1冊です。
- 作者: 夏川草介
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2009/08/27
- メディア: 単行本
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帯には
神の手を持つ医者はいなくても、この病院では奇蹟が起きる。
夏目漱石を敬愛し、ハルさんを愛する青年は、信州にある「24時間、365日対応」の病院で、今日も勤務中。
と書いてあります。
主人公を含め、登場人物にはみんなはっきりとした「性格付け」がしてあって、「坊っちゃん」とか「鹿男」ちっくな印象を持ちながら読みました。
特に心に残ったところは…と考えると。まずは本編の流れとはそんなに関係ないところで発せられたひとこと。
明けない夜はない。止まない雨はない。そういうことなのだ、学士殿。
ちょうど読んでいた時の心境もあって、頷きながら読みました。
それから終末医療の本質について考えさせられたところをちょっと長いですが引用させてもらうと。
しばしば医療の現場では患者の家族が「できることはすべてやってくれ」と言うことがある。
五十年前までの日本では日常の出来事であったし、その結果のいかんに関わらず、その時代はそれで良かった。稚拙な医療のレベルであれば、それで良かった。
だが今は違う。
死に行く人に、可能な医療行為を全て行う、ということが何を意味するのか、人はもう少し真剣に考えねばならぬ。「全てやってくれ」と泣きながら叫ぶことが美徳だなどという考えはいい加減捨てねばならぬ。
中略
患者本人の意思など存在せず、ただ家族や医療者たちの勝手なエゴだけが存在する。誰もがこのエゴを持っている。
中略
なすべきか、なさざるべきか……。
医者の権限のすさまじさは、これらの事柄がただちに実行できることにある。
これは危篤になったおばあさんに対して、どんな医療を行うかをお医者さんである主人公があわただしく葛藤する場面でのモノローグです。
現在の医療技術を持ってすれば、全身をチューブにつないで心臓を動かして数日間生き延びさせることは簡単に行えるけれども、医者がそれをやること、家族がそれを求めることは果たして患者さん自身が求めていることと同じなのかどうか。本当に必要な医療とはどういうことなのだ?そんなことを主人公と一緒に考えさせられます。
終末医療とか地方病院に勤務しているお医者さんの葛藤とか、むずかしいテーマも入ってきますが、全編を通して流れている空気はむしろどこか明るさがあって、温かくてやさしいです。ちょっとファンタジー風味さえ感じられるくらいです。
そんなわけで後々筆者がお医者さんだということを知ってびっくりしたくらいです。
現在介護のただ中にある人や、そういう職場にいる人が読んだら、ちょっぴり詰めが甘く見えてしまうかもしれませんが、これから福祉の世界に飛び込もうとしているオトートや、まだ若いアネにはぜひ薦めたい本だと思いました。
マジメで仕事に対しても生きることに対しても歪まず一生懸命な人ってやっぱり素敵だと素直に思える本なので、なんだかまだ人というものの本質を知らないのにすでにして斜に構えちゃってる若い子とかにもお勧めしたいです。
ありえないくらい忙しくて寝る暇もない毎日なのに、まわりの人のちょっとした気持ちにちゃんと気がついたり、患者さんの気持ちを深く推し量ったり、「必死な毎日」の中でも、今自分ができることを精いっぱいやろうとする主人公はとっても素敵です。
そして、彼の周りにいる他の登場人物たちもまた、老若男女問わずとっても魅力的で温かいです。
とりあえずアネやオトートに回してみようと思います。