ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

[本]県庁の星

県庁の星

県庁の星

 久しぶりに、読後感がとってもさわやかで気持ちの良い本を読みました。ほぼ同時に「UDON」を読み終わったオトートと交換したところです。読んでいる途中からずっとアネやオトートに読ませたいと思っていたので。
 映画の予告を見てとても興味を持ったのですが、映画は見損ないました。DVDになったら是非見てみたいですが、予告で見ただけでも、ずいぶん原作と設定が違うのがわかります。
 この本に出てくる主人公が県庁のホープという人間で(そのまま「県庁さん」と呼ばれる)、研修と称して民間のスーパーに出向させられるところから始まります。世間の「公務員」のイメージを絵に描いたような人物で、絵に描いたような仕事の仕方なのですが、どうやら県庁では将来有望と思われているようです。
 ところが、もちろん県庁で培った仕事のやり方はスーパーでは全く通用せず、それどころか影の店長とも言われている有能なおばちゃんパートの二宮女史には、「全く使えない奴」と言いきられ、余計なことをせずに1年の研修の間おとなしくしていなさいと釘を刺されてしまいます。
 そのふたり、若者「県庁さん」とおばちゃんの二宮女史。最初は絶対にかみ合うはずかないと思うふたりが、徐々に心を通わせ、それぞれ得意な分野の知恵を出し合いながら店を立て直していくお話です。
 一緒に共通の目的に向かって走っていくうちに、安易に恋に落ちたりするドラマには飽き飽きしているので、そうでないところもとっても好ましいです。わたしとしては同世代で聡明なパートの二宮女史が上司や同僚に言ったり思ったりすることがいちいち最もで、「そうだ、そうだ!」と胸がすく思いでした。せりふと並行して心の声(本音)が書かれているのも面白いです。「おばちゃんの辛口の本音」の部分には徹底的に共感。「そうだ!そうだ!」と大喜びで読みました。世間では何にも考えていない風に思われがちなおばちゃん世代だけど、意外に地味に聡明で冷静に数々の重要な判断を下しているのもこの世代だと思うのです。とはいえこれを声に出して言えないところが同世代。多分もうちょっと年を重ねれば臆せず言いたい放題世間を斬ってしまうのかもしれませんが。
 一方で職場では怖いもの無しの彼女にも、プライベートには息子という「弱み」の部分があって、彼との接し方や子育ての部分では自信がなくていつも迷っている・・・そういうところも共感できました。
 最初の方では、店の社員たちが個性的すぎだし、いい加減すぎると思いつつ読んでいたのですが、実は途中から彼らにもそれぞれ表には出ていないいいところがあるのがわかってきます。本当はスーパーにも自分の持ち場にも熱い思いがあるのです。「県庁さん」自身もその役人らしい緻密さや交渉の能力、書類作成能力など、元々備わっているいいところがあるのですが、それが最初の方ではみんなかみ合わず空回りしてばかりです。
 それがあるきっかけを経て、うまく回り始めるのです。適材適所、みんなの個性やいいところが生かされ始めるにつれ、店自体がびっくりするほど変わって行く後半は夢中になって読みました。うまく行き過ぎ?話がうますぎ?というところもあるにしても、個性的な面々がひとつの目的に向かって結集して、素晴らしいものをいっぱい生んで行く物語には惹きつけられずにいられません。
 組織を変えて行くことは容易ではないけれど、不可能なことじゃない。「こんなしょぼいメンバーじゃダメ!」なんて決め付けたらスタートラインにすら立てない。改革はむずかしいけれどできたときの達成感はすばらしい。やらないでどうせダメ、リストラはやむを得ないと決めないで、とことんがんばった皆さんに乾杯!もちろん実際毎日現場で苦労している方々にとっては、「本当の会社ではそんなに簡単じゃないんだよ」と苦々しく思う方々もいるでしょうが、「どうせ無理だよ」が口癖の若い世代にこそ、「そうかもしれないけど、ちょっとだけがんばってみたら」と肩の凝らないこんな本で・・・背中を押してあげたいです。