- 作者: 三崎亜記
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/12/20
- メディア: 文庫
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「実態のない戦争が描かれている」という評を読んだことがあったのですが、なるほど、本当に全く実態も実感もない戦争です。いきなり広報で「となり町との戦争のお知らせ」という告知を見て開戦を知るのです。
見た目には何も変わらない町並が続いているのに、広報に発表される「戦死者」の数は、着々と増えて行きます。そのうちに主人公にも町役場から「偵察部隊」としての任命書が届き、否応なしに戦争に巻き込まれて行くという話です。
そのうちきっと戦争の全貌がわかるのだろうと思いつつ読み進めるのですが、どこまで読んでもちっともすっきりしません。主人公は、役所側の人間の香西さんと任務上の結婚をして、やはり実態の全くつかめない任務を遂行するのですが、彼のみならず読んでいるわたしも全く戦争のリアリティーを感じられないままに、物語だけがどんどん進んで行きます。
なによりこの戦争が町と町との公益事業だという設定にはびっくり。ずいぶん前から戦争事業が市の予算に組み込まれ、双方の町で用意周到に計画され、町の活性化のためという大義名分の下、計画が着々と進められてきたというのがありえません。
戦時中で非常時のはずなのに「お役所仕事」はどこまでもお役所仕事で、書類は多いし手続きは面倒で、辞令ひとつ出すにもどこまでもまわりくどく、その辺りは皮肉たっぷりに描かれています。
これを読んでいて、このリアリティーのなさ、目の前で起こっていることなのに、なぜか感情をどう動かしていいのか戸惑ってしまう辺り、なんとなく「湾岸戦争」の時のテレビ映像を見た時の自分と重なって、途方も無く怖い気持ちになりました。
たくさんの人たちが巻き込まれ亡くなっているのに、まるでゲームの世界のようにしか思えない戦争の光景と、戦争ごっこのような役所がらみの戦争事業。どうみてもなにかがおかしいのです。
どこまでも戸惑っている主人公に、途中で物語のキーワードとも言える言葉がパートナーの香西さんから発せられます。「戦争の音を、光を、気配を、感じとってください。」そしてこの後本当に、主人公は五感のすべてを総動員しながら、戦争というものをこっぴどく感じることになります。
しかしここに至っても結局、凄惨な戦況を主人公は一切生で目撃することはできません。最後まで「ただ肌で感じただけ」なのです。
結局のところ後味があまりよくなかったし、どうにもリアリティーのないところや、一方で仕事上の偽装結婚なのに香西さんに夜の相手までしてもらうあたり、おままごとのような結婚ごっこが夢のように展開するあたり(笑)、ちょっと都合が良すぎる話に思えたりもしました。
そんなわけで、とっても惹きつけられたとまではいきませんでしたが、設定や視点はとっても新鮮で興味をひかれたし、読みながらいろいろなことを考えさせられたし、平和ということについて、今までと全く違う観点から考えるきっかけになったことを考えると、読んでよかったのかもと思います。