新しい職場に変わってもうちょっとでひと月というオトート。
以前の職場と比べるとお仕事は単調ですが、一生懸命やれば成果が目に見える形でわかる職場でもあって、向いてるかも!と前向きに日々出勤していて、ああ、ほんとうによかった!と思った矢先、事件は起こりました。
オトートの今いる部署は、なんらかの身体、あるいは心の障がいを持つ人や、心の病気を患っている人を中心に、健常者の課長と主任という構成でできています。
実を言うとこの部署に配属が決まったとき、わたしは、それじゃなくても個々に異なる事情がある人を、十把一絡げにしちゃうのは乱暴なんじゃないか?という不安がちらっとよぎりました。
ですが、本人が何も言っていないのに、親が先回りして言うことでもないし、そもそもオトートも大人なんだし、何かあれば自分で言ってくるだろうとも思っていました。
実際、オトートが言うには、みんな今までいろんなことがあって、集団に入るといじめられたり、邪魔にされたり、お互いとても苦労してきているから、みんな人に対してやさしいし、思いやりがあって、居やすい職場、いい職場だと言っていたところでした。
ところが、日々、仕事にも慣れてきて、今までよりも早起きなのもなんのその、やる気満々だったオトートの様子が、先日、あきらかにおかしくて、帰ってきてからほぼひとこともしゃべらずにお風呂に入ってしまったので、どうしたのかなぁ?きっとなんかあったに違いないと思ってはいたのですが、やっぱりでした。
オトートに仕事を教えてくれていた先輩はある発達障害系の方で、とてもていねいに仕事を教えてくださり、うまくいかない時は熱心に自分の時間を割いて、どうしてうまくいかないかを親身になって考えてくれるとてもいい方だと言っていたのですが。
その先輩が昨日突然オトートに激怒したのだそうで。
理由は一見とてもつまらないこと。
オトートが何か、ものを入れる棚を間違えて入れてしまい「なぜそこに入れたの?」と別の上司に聞かれたときに「確か先輩にそう聞いた気がしたので。」と言ったのだそうです。
上司は怒っていたわけでもなく「ああそうなの?そっちじゃなくて、こっちだからこれからはこっちに入れて。」と言われたので「わかりました。以後気をつけます。」とオトート。
話はそれで終わるはずでした。少なくともオトート的には。
ところが。
それを横で聞いていたくだんの先輩が「俺はそんなことは言ってないだろう。」と言い「わたしの勘違いだったのだと思います。すみませんでした。」とオトート。
その時にオトートが困った時によくするような、あいまいな笑みを浮かべて謝ったことが、意外にも先輩の逆鱗に触れてしまいました。
オトートは小さい頃から何か身体のことでイヤなことを言われたり、暴言を吐かれると、あいまいな笑みを浮かべ、心にシャッターを下ろして何も感じなかった、何も聞いていないというフリをして通り過ぎるということで身を守ってきました。
全部を受け止めてしまっては心が壊れてしまうし、知ってはいましたが、それも防衛手段のひとつだとわたしも半ば理解していたのですが、その癖がなかなか抜けません。
本人も自覚していて、前の職場でも上司に「人間として失格だ!」的、とんでもない暴言を吐かれたときに、思わず不必要に笑みを浮かべてしまい「叱られたヤツがへらへらするとは何事だ!」「オマエは何も真剣に考えてないだろう!」「そういうところがダメだっていうんだ!」と怒鳴られたことがあります。
その時の経験があるから、時としてその愛想笑いがどんな怖い効果を生むかも思い知っていて、かなり気をつけていたらしいのです。
でもだからと言って、そう簡単に人の癖というものはなくなりません。
かといって、家の中でそんな様子を見たことがないし、いつもそういう態度なわけではもちろんなく。
本当にピンチだと自分が思ったときに、本能的に出てきてしまう、ある意味日本人的な、彼にとっては身を守る手立て、あるいは武器でもあるわけです。
さて。
オトートの話を聞いたとき、先輩は多分、人の曖昧な表情とか感情が読めない性質のある障がいを持っているのだろうということがわかりました。
一般的にとても聡明で頭もとてもよく、特出した能力を持つ人が多いのですが、一方で普通に人とコミュニケーションを取るのがとてもむずかしいのだそうです。
今回のことがあって思い出してみれば、実は最初に入ったときに、上司から「彼はそういう症状があるから、曖昧な態度は禁物です。言動ははっきりね。」と言われていたらしいですが、今までとてもうまくやっていたので、オトートはそのことをすっかり忘れてしまっていたのだそうです。
先輩は人が笑っていると楽しいのだろうと思い、顔が曇っていると悲しいのだろうと思う。
細かい感情の機微を読み取ることができません。
なので「オトートが笑っているイコール、悪かったとはかけらも思っていない」と思ってしまったみたいです。
でさらに激怒した先輩は、さらにオトートを怒鳴りつけ「最後に一度だけ聞く!俺に教わったとウソをついたのか?どうなのか?」と殴りかからんばかりに詰め寄ってきたのだとか。
静まり返ったオフィスで、いきなり怒鳴られたオトートは、とっさにこのままでは殴られてしまうのではないかと思ったそうです。
で、こともあろうに「すみませんでした。ウソをつきました。」と言ってしまったのだそうです。
ここがそもそも大バカなわけですが(笑)
第三者的に考えてそれは「ウソ」というようなものではなく。
勘違い?(かもしれない…というくらいの曖昧さですが、本来であれば、さほど問題にするようなことでもなく終わること)から始まったものだし、そのあとから脅されて言った「ウソをつきました」という発言はいわばその場を切り抜けたいがための「言い逃れ」とでも言うべきもの。
しかし、人の言った言葉や顔色、表情はなんであれ、見たまましか受け入れることしかできない先輩は、そのひとことで益々激怒して「こんなうそつきとは二度と仕事をしたくない!あっちへ行け!」と事務所中に響き渡る声で激怒。
そのまんま一度も口をきくことなく、一日が終了してしまったのだそうです。
これがその日の事件の全貌で、オトートは「もうだめだ!」「うそつきのレッテルを貼られた。」「職場のみんなもきっと自分のことを二度と信頼はしてくれないだろう。」「こんな問題を起こしてしまったからには、またクビかもしれない。」とびくびくしながら帰ってきたそうです。
実際、お風呂から上がって、夕食を食べながら話を聞いたときに、ぶるぶる震えていて、本気で怖かったし、とんでもないことになってしまったと思ったのだと思います。
わたしはたまたまこの先輩のような発達障害の症状について勉強したことがあったので、すぐにああ、多分そういうことだな!というポイントがわかったのですが、オトートは知ってはいたけれど、自分があからさまな怒りをぶつけられたことに対して動揺しすぎていて、冷静な判断がまったくできず、ただただ凹んで帰ってきたようでした。
その後、よく話を聞いてみたら、先輩とはそんな感じで終了したものの、上司に報告をしたら、上司は状況がすぐさまわかったのでしょう。
「今回のことでわかったと思うけど、彼にはそういうところがあるからこれからは気をつけて。」
「わからないことがでてきたら、曖昧にしないで、これからはちゃんと誰にでもいいから聞いてください。」
と言われただけで、オトートはまったく責められることもなかったとのこと。
さらに「以前の部署で、突然に切られて異動になったので、正直、それがトラウマになっていて、とても怖い」というのも相談したそうですが、上司はわらって「ちゃんとやってれば、そんなことはまずないから」と笑い飛ばして言ってくださったとか。
そうは言っても本人にとっては「うそつき呼ばわり」は相当なショックだったらしく。
自分はダメ人間なんだろうか?
何をやってもダメなんだろうか?
どうして人を怒らせてしまうのか?
オレは人を怒らすタイプの人間だと思う?
オレってウソつきだったんだろうか?
次々と小声で繰り出される不安は、客観的には笑い飛ばせる部類のものですが、本人はとても真剣です。
いやいやいや。今まで嘘つきなんていわれたことは一度だってないでしょう?
周りともずっとうまくやってきたし、学校の先生からそんな風に言われたことも一度もないでしょう?
というような話をしてみたり。
自分も障がいがあるけど、本当に障がいがあるってことは、こういうことなんだ…というのを人を見てつくづくと感じた。
これじゃ、使う方だって大変だ。
オレを使うのも職場はすごく大変なんじゃないか。
他の先輩たちは激昂した彼のことを怖がって、ほとんど誰も口を挟めず蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまったとか。
そんな怖い人に毛嫌いされてやっていけるんだろうか?
そして話している間に、冷静になったオトートはオトートで、今度はいろいろと先輩に対しての怒りも沸々としてきて、これはとてもむずかしい問題だと思いました。
これからもその先輩と同僚としてやっていくなら、オトートももっとその先輩のことを理解しなくてはならないし、その先輩にもオトートのことをもっと理解してもらわなくてはならないと思うのです。
これは簡単にてきとーに話をしてはいけないと身構えつつ、2時間くらい話をして、今後どうしたらいいのかをオトートと一緒に考えました。
先輩の側に立って物事を考えてみるなら。
ハンディキャップがある子どもは、社会の中で煙たがれたり、あからさまに邪魔にされたり、やつあたりされたり、いろいろなことを背負わされていて、それでも社会に出て仕事ができるようになるまでに、どれだけご両親が苦労されてきたかが、瞬時にして想像できてしまいます。
彼の親の立場に立ってみると、それはそれで胃が痛いです。
今回はオトートがたまたま標的になってしまったけれど、こんな行き違いは多分彼も幾度も経験してきていることでしょう。
学校で職場で、社会で、いろいろと軋轢を生み、彼自身も相当苦労してきたに違いないと思うのです。
オトートは口下手で、わりとなんでも丸くおさめようとしてしまうところがあるタイプなので、やられっぱなしで帰ってきましたが、これが健康な人ばかりの職場だったら…
もっと強気な人の集まりだったら…
「冗談じゃない。これをウソって!ただの勘違いだろ!オマエ、アタマおかしいんじゃないのか!!」と言われるのは彼の方だったかもしれないと思うのです。
オトートも心の底ではそう思ったかもしれないですが、ここのところ、あまりにもやりこめられることが多かったので、何かが起きると全部自分のせいじゃないか?と思ってしまうようになっていて…
これからそんな風に卑屈になったり、弱気になったり、ましてや心を病んでもらっては困るので、できうる限り援護射撃はしたいと思うのですが、ひとつ間違えると先輩を悪者にしてしまうし、それはとても愚かなやり方だとも思っていて。
まだまだどんな風に対処していけばいいのか、わたしも答えが出ないままではあるのですが…
とりあえずは、現状がどうあれ誠実に仕事をすること。何を言われても仕事だと思って淡々とやりなさい…というようなアドバイスしかできなかったけれども。
話を聞いていくうちに、冷静になったオトートが思い出したことがいくつかあって、職場の先輩たちすべてを敵に回したような気持ちでいたのが、実はよく思い出してみるとそういう空気でもなかったこと。
世の中にはいろんな人がいて、いろんなことに傷ついてここまできて、社会に出て新しい人に出会うわけで。
今までのやり方が通じない場面も多々あるだろうし、いちいちそれで逃げ出していては、きっとやっていけないと思うのです。
だから、もっと強くならなきゃだめだし、もっと賢くならなきゃだめだし。
必ずしも正攻法で行くことがベストでもないし。
みたいなとりとめのない話をいろいろとしているうちに、オトートもかなり落ち着いてきました。
オトートが嘘つきだなんて思う人は誰もいないと思うし、そこは自信を持っていいと思うけど、ただし、相手に強く出られたからと言ってその場のがれをしたのは絶対的に失敗だし、これからもそんな言い逃れをしちゃダメだというのははっきりと。
そして、とにかく健常者、障がい者に関わらず、曖昧な態度を取ってはダメ…というのも。
これはわたし自身にも言えることですが、典型的日本人の弱いところなのですよね。
その場をなんとか丸くおさめて逃れようとしてしまう。
いずれにしても、棚を間違えたくらいのことは、上司的にも職場的にも、冷静になって考えてみれば、オトート的にもほんとうにつまらないことだけど、それがとてもとても重要で、完璧でないと気持ちが悪い人もいるということをちゃんと彼も理解しなきゃダメなわけで。
今の本当にいろいろな事情がある人がいる状況で仕事をするという事態は、難易度は高いけれど、彼のこれからにとってプラスはきっとあるんじゃないか…とそんなことを話しました。
先輩のような発達障がいを持つ人たちは、意外と社会にもたくさんいるのですが、一方で天才と呼ばれるほど頭がいい人が多いけれども、人とコミュニケーションを取ることがとても苦手で、気がつかないところでトラブルを起こしてしまったり、いわれのないことで、性格に問題ありとか、育てられ方が悪くてこうなったんじゃないかなんていわれたりすることもあるのです。
今の社会はそういう人たちにとって、住みやすい環境かというと、絶対にそうじゃない気もしていて。
それはまた、オトートのような身体に障がいがある人もまた同じこと。
そのトラブルがあった翌日そして週明けの月曜日と、朝会で自分のどんなところがまずくて迷惑を掛けたかということを、ちゃんとみんなにわかってもらう…と言って、遅くまで紙に自分の考えを整理してました。
結果、上司はもちろん、他の先輩たちには一応理解してもらえて、大丈夫、一緒にがんばろうと言ってもらえたそうですが、当事者の先輩は完全無視(笑)
なかなかに前途多難です。
「大丈夫。ゆっくりと信頼回復に努めましょう」と上司はおっとり言ったそうですが、そうは簡単じゃないですよね。
先週はそんなこんながあって、我が家にも激震が走りましたが、土曜日は一日のんびりして、日曜はわりと元気になっていたし、アネもいたしで、わたしは一人で、こちらもまた気になっていた実家へ。
選挙日だったし、早めに帰ってきたら、家中がなぜかぴっかぴかになっていて驚きました(笑)
わたしにとんでもなく迷惑を掛けたと思ったオトートがお詫びのしるしということで、家中の掃除をしてくれていたのでした。
夕方7時前に帰ってきたのですが、洗濯物はちゃんと畳んでそれぞれの部屋に、洗面所にと整頓されて置いてあったし、風呂はぴっかぴかに磨かれて沸いていたし、オトートはあちこちを片付け、一人で選挙にも行き、バロンの散歩も済ませ、のんびりお風呂に入ってビールを飲んでました。
こういうところをみると、自分の気持ちで精一杯ということでもなく、上司には「もっと君も回りをよく見なさい」と言われたそうですが、オトートが人の気持ちに鈍感なタイプだとは思えないのですよね。
親の贔屓目かもしれないけど(笑)家事も言わなくてもよく手伝ってくれるし、家族の気持ちにもむしろとても敏感です。
なんとかしよう、よりよい環境を作るために努力しよう、前向きに這い上がろうという気持ちがあるのはちゃ〜んと伝わるんだけどなぁ。
とはいえ、とりあえず夏に某ライブに行くという楽しみもでき、いろんな意味で前向きはひねり出したみたいで、ひと安心。
まだ母としてはこっそり胃がしくしくしているけど、昨日からは普通にお弁当を持って出ていきました。
先日病院へ健診に行き、とりあえず筋ジスの進行もないことがわかり、ひと安心したところです。
筋力がないから、歩くのもゆっくりだし、仕事に慣れるまで効率が悪いところもあるのかもしれないですが、そういえば何事もスロースターターだよね!という話もしました。
でも、小さい頃から、スタートは遅れても、いつの間にかできるようになっていて「これもできた!」「あれもできた!」ってやってきたよね。
できないことを数えるんじゃなくて、できることを数えながらやっていこう!
ただし、このまんまこの会社でずっと…というのはムリかもしれない。
よりよい職場があれば転職もありかも?と、障がい者用の就職サイトにはこっそりアクセスしておく…とも言ってました。
それもいいかもしれません。
やっぱり会社のひとつの部署にだけ障がいのある人も精神を病んだ人もひとまとめにして、その中だけでいろんな問題を解決しようとするのは、かなりムリがあると思うのです。
先輩のような障がいの人とうまく付き合いながら仕事を進めるというのも、社会人二年目で、しかも自分もハンディを持った社員の手におえることでもない気がします。
きっと健常者で何年も働いている人であっても、そういうタイプの人とうまく付き合いつつ仕事を進めていくのはとても大変だし、たくさんの人の知恵と忍耐が必要なこと。
問題の根は深いです。
なぜかわたしの周り、KinKiさんファン周りにもハンディキャップを持つ家族がいる方や、ご自分自身がハンディキャップがあるという方も意外とたくさんいらっしゃって、時にご本人から貴重で前向きなアドバイスをいただいたり、パワーをもらったりすることも多いです。
何かハンディを持っていると、人よりも苦労しなくてはならないこともたくさんあるし、あまりにも問題の難易度が高くてくじけそうになることも多いですが、みなさんもきっと同じようにがんばってらっしゃるのだから…と思って負けないで行かなきゃね!
「普通そうでしょ!」
と簡単に言いますが「普通じゃないこと」なんて世の中、いくらだって転がっているのです。
何をもって普通というのか、それもまたむずかしいところですが、「ケセラセラ〜なるようになる〜♪」と歌いながら、ふわっと乗り越えていけたらいいな。
そういう願いをこめて、日記に書いておきます。
親としてできるのは心を寄せるくらいですけれども、どうぞオトートが、先輩が、そしてハンディがある人もない人も、すべての人が堂々と胸を張って生きていける世の中になりますように。