ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 Kちゃんのこと

こちらは下に書いたMちゃんと同級生のKちゃんの話です。
Kちゃんは、昨年の今頃には早々進学先が決まっていました。やっぱり彼女も吹奏楽をやっていて、その力を買われてMちゃんとは違う高校ですが、やっぱり吹奏楽の強豪校に推薦入試で合格しました。
彼女は小学校一年生の時からうちに来ていた生徒ですが、いつも淡々としていて、とっても落ち着いた女の子です。
練習はあんまり好きじゃないみたいですが、それでもピアノを弾いているときは楽しそう。
歌って!と言えば大きな声で、おとなしい子ですが、ピアノは結構大胆、そして表情豊かです。
お休みしたことはほとんどありません。
そして大して練習もしていないのになんとかなってしまうタイプ(笑)
とっても器用で初見演奏も上手、結構要領がいいタイプなのですが、ポロっと途中で譜読みを取りこぼしたり(笑)1ページ抜かしてやってきて「あ〜あ」とうなだれたりもするような女の子(笑)
うちの教室に入会してからこっち、そんなに遠くに住んでるわけではないですが、ご両親のどちらかに必ず車で送られて、毎週時間ぴったりにきちんと来ます。
明るい子ですが、口数は少ないです。
とっても人見知りで、心を開いて世間話をするようになるのに4年くらいかかりました(笑)
でもだまっていてもピアノやレッスンを楽しんでくれているのはちゃんと伝わってきたし、笑い声がそれはそれはかわいくて、その声が聞きたいがためにヘタなギャグのひとつも言ってみようか…と思わされるような子でもありました(笑)
家族でディズニーランドに行くのが趣味という家で、行くといつも以前わたしが「このキャラクターの缶が大好き」と言ったのを覚えていて、同じキャラクターの絵がついたおみやげをくれます。
そんなKちゃんは高校へ入って3日で学校に行けなくなりました。
その話を聞いたのが5月くらい。
おかあさまはアネの同級生のママということもあって、一度だけ電話で「こうこうこういう事情で、今外に行けるのは先生のところだけみたい。先生がイヤじゃなかったらピアノだけでも続けさせていいかしら?それから不登校をしていることをわたしが先生にしゃべったことも内緒にしてほしいんだけど。」そう言われました。
そして「来ても来なくても大丈夫。時間だけちゃんと決めておいて、来た回数だけお月謝をいただく」という約束で今も細々ピアノを続けています。
レッスンが軌道に乗っている時は、淡々と毎週ちゃんと来るのですが、一度何かがきっかけて来れなくなると、お休みがちになってしまいます。
ぎりぎりまで連絡なしで、5分前に「急用ができました」とだけ短くメールが来ることもあれば、前日に「明日はやめておきます。」と言ってくることもあります。
連絡はすべて本人とメールで。
5月におかあさんと話して以来、ご両親とは車ごしにご挨拶をするのみです。
うちも娘が不登校になりかけたことがあるので、どんな状況かはだいたい想像がつくし「ムリをしてでもおいで」とは言わず、連絡さえもらえば「わかりました。来週はおいでね!」と返すにとどめ、口出しはしていません。
あくまでも来れた時には普通に迎える。
そして普通にレッスンをする。
そして「来週またね」と普通に別れる。
それをモットーにしてきました…正解が何なのかわからないままに。
そんな彼女、今年の秋からこっちどうも調子がイマイチみたいで、休みがちになっています。
やっと1回来たと思ったら翌週は我が家がお通夜になってしまい、残念ですがキャンセルすることになってしまいました。
これは仕方ない出来事でしたが、彼女にとっては気の毒なタイミングでのキャンセルだったなぁと思います。
そして数ヶ月前に気がついたのですが、レッスン時間のずいぶん前から、うちの前で車の中で待っているみたいなのです。
時間ぴったりを待って、玄関のチャイムを押していたみたいなのです。
そのきっちりとした性格が彼女らしいとも言えるし、ドアツードアーでほとんど歩く距離はないはずですが、玄関チャイムを押す瞬間までの間が、彼女の中の葛藤でもあるのかな?と。
一度「こんにちは〜」と顔を合わせるといつもどおり。
とてもにこやかに入ってきて、レッスンはとてもリラックスして受けているし、「もうちょい練習すれば〜
。相変わらず詰めが甘いよ!」なんていつもの調子で振ると「ははは〜やっぱり!?言われると思った〜」なんて切り返されたり(笑)
まあまあいつも通り、逆にいつも通りにこだわりすぎているのかな…わたしが。
そんな彼女が、3週間連続でお休みのあと、先週の土曜日にやっと来ました。
珍しく7分遅れ。
2分くらい経った時点で「もしやうちの前にいたりして?」とのぞいたら、やっぱり車は止まっていて…7分後に何事もなかったかのように入ってきました。
遅刻なんて始まって以来です。しかも時間どおりうちの前にはいたのに。
彼女も何も言わないので、わたしもいつも通り防音室に招き入れてそのままレッスンをしました。
やっぱりいつも通りの彼女でした。
小1のころからなんら変わりない、彼女とわたしだけの時間。淡々とレッスン時間が過ぎていきます。
生徒もいろいろで、あっちこっち脱線してしまい、それを楽しみにしている生徒もいるし、あらゆる曲に対し質問攻めな子もいます。
テストの話や学校ごとを聞いてほしい子もいれば、あくまでもレッスンのペースを乱さず淡々とやりたい子もいるみたいです。
わざといたずらを仕掛けてくる子もいれば、喜怒哀楽の激しい子もいます。
そして彼女のように物静かな子も。
モーツァルトソナタを弾いている横顔をみたら、顔色が真っ白なことに気がつきました。
ちょっとふっくらしたかな?でもちょっと不健康?夜はちゃんと寝れてるのかな?
もうちょっと弱いところを見せてくれてもいいんだし、ムリをしなくてもいいんだよ…
いろいろ言った方がいいかな?と思ったり、おかあさまに今の状況を聞いてみたいような気もしたり。
でもご両親も何も言わないし、彼女も何も言わず。
でもこうして通ってきてくれるなら、しばらくは様子をみようかな?
彼女が弾くモーツァルトはカチっとしてとっても快活です。
早いパッセージは時として豪快に数音すっ飛ばしたりもするけど(笑)曇りのない明るい音を鳴らします。
この音の中に彼女を理解するヒントは隠れていないのかな?
横顔をちらちら見ていたら「せめて彼女の笑顔が見たい。彼女のコロコロと笑うその声が聞きたい」…なんて切実に思ったり。
帰り際にふと思い出したことがあって超どうでもいい話をしました。
「Kちゃんさ、『君に届け』ってコミック知ってる?爽子ちゃんを見るとKちゃんを思い出すんだよね。髪形とか…自分がはっきりあるとことか、似てない?」と言ったら、「あはははっそう?好きなキャラだから似てるって言われるのはうれしい」って親しげに笑ってくれました。
ああ、この話を思い出してよかった。
彼女とわたしをつなぐのは頼りない蜘蛛の糸よりも細い線が一本だけ。
その線もいつ突然切れるかもわかりません。
彼女本人かご両親がいつ「これで終わりにしよう」と言われるかもわからないし、次回来るかどうかもわかりません。
通ってくればきっとまたいつものように何事もなかったかのようにレッスンをするのだと思います。
彼女にとってわたしとの時間は、ピアノと向き合う時間はちょっとは楽しいものになっているのかな?
そんなことをわたしが思っていることに気がついているのかな?
なによりわたしとの一時間は、彼女にとって我慢の時間だったら悲しいな。
ちょっとは純粋に楽しんでいると思いたい。
とりとめもないことが浮かんだり消えたりしながらもいつも通り1時間はあっという間に過ぎて、ドアを開けたらおとうさんが運転する車の助手席に乗り込んで、親子で軽く頭を下げてあっという間に車が走り去って行くのもいつも通り。
そうやって毎週土曜日のレッスンが終わります。
さて、明日は来てくれるかな?