ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 ごめんね!やめちゃって。

 これはきのうのSちゃんのレッスンでのひとこと。Sちゃんはついこの間も話題にした、スランプの山を越えたばかりの9歳になったばかりの3年女子です。
 8月に確か彼女のことについて日記に書きました。スランプを越えたばかりで、わたしの日給について言及した彼女です。ちなみにその時の日記はこれです。
 この彼女がふと、曲と曲の合間にこういいました。「ごめんね!おねえちゃん。やめちゃって!」彼女のおねえちゃんは、8月一杯でレッスンをやめたのです。この話題はもっと前に書こうと思ったのですが、今のところ、一番プロになる可能性が高い子だと思い、大切育てて来ただけにショックすぎて、すぐには話題にできなかったのです。
 実は、彼女のおねえちゃんは中学1年生で、バレー部に入ったため、土日もなし平日も7時過ぎにならないと帰らないし、そのほかに塾が週3日。ピアノ、体操とそれはそれは忙しくしていました。
 小学生の時は体操でも大きな大会でいい成績を収め将来を嘱望されていたし、もうひとつ習っているお習字でも賞をたくさん取っていて、中3まで続けられれば師範が見えて来るはずと言われたそうです。
 彼女は口べたなので、レッスンの合間にもほとんどしゃべりませんでしたが、ほんのちょっとだけ会話をしたのが、「わたしね、将来は絶対に先生みたいなピアノの先生になりたいの」というような話で、実際にピアノもものすごくがんばっていたので、きっとなれるはずと思っていた子でした。
 しかし、結局のところその真面目さ故に全部のことが中途半端なのが耐えられずに、まずはお習字が、続いて体操が休止状態になり、とうとう「8月を持ってピアノもやめます」ということになってしまったのです。
 実は、中学に上がったばかりの頃、「バレー部に入りたいと言うのですがどうしましょう!?」とおかあさんに相談されていて、本当は絶対にバレーとピアノの両立は無理と思ったのに、本人が入りたいと言っているのに反対することが、どうしてもできなかったのです。今にして思えば、「やめとけば!」とどうして言わなかったかなあと大後悔です。
 今の子たちは、中1からみんな塾に行っていて、平日も3回くらいは9時半夜10時帰りです。部活はぎりぎりの時間まであるので、塾の日は夕飯もそこそこに出かけて行きます。
 週末は朝からお弁当持ちで部活が当たり前で、土日のどちらかは練習試合だったりもします。
 そんな状態で毎日ピアノの練習なんかできるはずもなく、わかっているので、最小限の練習でなんとか続ける方法を伝授したり(わたしはさぼりっ子だったので、こういうノウハウはいくらでも持っているので)「弾かなくてもいいからおいで。レッスンに来なくなったら多分、もうピアノのふたを開けなくなるから。そうしながら、もう少し時間が取れるはずの高校生までなんとかつなぎましょう!」と言ったりしつつ、がんばって来たのです。ところが、今までは難なく毎日1時間は練習していたのに、急にできなくなったことが真面目がゆえに耐えられなかったらしく、とうとう限界が来て、結局部活と塾以外、全部やめてしまいました。
 妹のSちゃんは、おねえちゃんよりずっとたくましくて、練習は嫌いですがピアノは大好き。練習をしていなくてもひょうひょうとしていて、よくも悪くも欲がない女の子です。「もっと練習をやっておいで」と言っても暖簾に腕押し(笑)かと言ってやめる気などさらさらなく、その上に不器用であちこちぶつかりながらも、おどけながらやって来ます。
 さて、その無邪気なSちゃんが「ごめんね!おねえちゃん。やめちゃって!」なんて突然言うので、一瞬びっくりして言葉に詰まりました。
 「残念だったね、おねえちゃん」というと、彼女「あんなにがんばってたのに」と言います。
 イマイチ言葉の真意がわからないままに、「そうだね、あんなにおねえちゃん部活の合間を縫ってがんばってたのにね」と返すと「そうじゃなくて、せんせー。土曜日の8時からとかさ。日曜の夜とかさ。変な時間でもレッスンしてさ、がんばったのにさ。おねえちゃんやめちゃうんだもん。」ってひとこと。え〜!?9歳女子の目にも、わたしががんばりすぎに見えたのかしらん!?いろんな意味でショックです(笑)
 なんて言葉を返すべきかわからず、微苦笑していたら、「で〜も〜!わたしはやめないよ〜!!練習もしないけど〜!」といつものようにおどけて言いました。まっいっか。それはそれは…ありがとう。
 今までの経験から言うと、こういうひょうひょうとした子の方が、忙しくなって練習ができない事態になってもさほど気にしないで続けられるのかも。もしかしたら、こういうタイプの子の方が、細く長く、目が出る日まで習い事が続くのかもしれません。そういうタイプの典型がわたしで(笑)練習しなかった分、練習するようになったらびっくりするほど上達を実感できて、調子に乗ったまま受験を越えられた気がするし(笑)
 いずれにしても、どんな子にだってプロになるかどうかは別として、ちゃんと弾けるようになるまでは責任持って教えてあげたいなあと思います。「ピアノは弾ける?」と聞かれたとき、「弾けます。」と堂々と答えられる人であってほしいし、履歴書の特技にはちゃんと「ピアノ」と堂々と書ける人になってもらえるといいな。
 こんな風に突然やめちゃうこともあるのだから、どの子のレッスンももっと1回1回を大事にしなくては。