奈良日記 その4
奈良での滞在中、とても印象に残ったエピソードをふたつ挙げようとすると、ふたつともバスの中の出来事になります。
ライブの行き帰りに乗った路線バスの運転手さんのエピソードです。
行きのバスの中では、50歳くらいの運転手さんが乗るやいなや「席に座ってください」と一見ぶっきらぼうな声で言いました。
あれっ!?せっかちな運転手さんのバスに乗ってしまった?と一瞬思いましたが、それは勘違いで、わたしたちに向けて言ったのではありませんでした。
後ろの方にスポーツ帰りらしき小学生男子のグループがいて、この子たちがずっとふざけていたのです。
遊びと羽目をはずすの間くらいのテンションで、立ったり座ったり、へりくつをこねあったりちょっかいを出したり、危ういバランスでワイワイやっています。
と、ほどなくまた運転手さんから「きちんと席にすわってください」とアナウンス。一瞬静かになる車内。
また続くお口のバトル。怒っているのに口調はまったりな関西弁。どこか244さんにも似た口調だなあと思いながら、ついつい聞き耳を立てるわたし。勢い余って立ち上がる男の子たち。しつこく「席にすわってください」のアナウンス。反射的に座るものの、またすぐに立ち上がる子どもたち。
このやり取りが、なんとバスを降りるまで延々続いたのです。
これが関東から来たわたしたちにはちょっと考えられない新鮮なやりとりで、とっても印象に残りました。
運転手さんはというと、感情的にならずあきらめず、口調はぶっきらぼうですがイヤな感じではありません。叱られるたびに、とりあえず一瞬は座るクセに、どうしてもおとなしくしていられないエネルギーがあり余った小学生たち。
そして、彼らのせいでかなりやかましい車内になっているのに、バスのお客さんもそんなにイライラした様子はありません。
関東だったら、こんなバスに乗り合わせたら「チッ!」と舌打ちする人がいたり、明らかにイライラが顔に出る人がいたり、運転手さんは1〜2度は注意するかもですが、後は見て見ぬふりだったりしそうです。そもそもこんなバスに乗り合わせたら、いつかどちらかがキレるんじゃないかとヒヤヒヤしそうな気がします(笑)
ほどなくお口バトルに負けて涙声で文句を言う男の子。まあまあまあと割って入りながらまた悪態をつく友達。「なんでや〜!」と立ち上がるふたり。間髪いれず「座ってください」と運転手さん。勢い余っていたクセに双方同時に反射的に席に着くの図。叱る側も叱られる側もまさかとは思うけど楽しんでる?というやりとり。
ここいらの大人と子どもの間には、根っこのところでちゃんとした信頼関係ができているのかもと思ったり。
わたしも仕事柄、毎日小学生に会っているので、子どもがいつも調子がいい時ばかりじゃないのはよくわかっています。羽目をはずす子だって眠くてご機嫌斜めの子だっているし、ひたすら扱いずらいときもあります。
そんな時、もちろんちょっとは注意しますが、すぐに「まっいっか。」とあきらめてしまいます。キレられては困るし、煙たがられても哀しいし、一歩引いた目で見てしまうのです。
こういう姿勢だから、本当の意味で子どもたちとわかりあえないんじゃないか?なんて思ったり。そういえば奈良の子たちの舌戦もなかなかでしたが、「死ね!」とか「ふざけんな!」とか「うざい!」なんていう感じが悪い流行言葉は皆無で、本当に子どもらしい子どもだなあと思ったり。なんだか感心することしきりでした。
一方で帰りのバスの話。
JR奈良駅からホテルに戻ろうとしていたとき、タイミングよく路線バスがいました。どのバスに乗ればホテルに帰れるのかさっぱりわからなかったわたしたちは、とりあえず聞いてみようと近づいたのですが、あいにく路線バスは車線変更の真っ最中、もう間に合わないと思って離れかけた時に、車線変更を途中でやめて、バスの後ろの扉が開きました。
ホテルの名前を言うと「このバスじゃないなぁ」と言われたので、「わかりました、すいません」とバスを慌てて降りて歩き出したところで、「ちょっと待って」とバスからマイクの声。「とりあえず乗りなさい」とわざわざ招き入れてくださったのです。
ここまでですでに感動していたわたしたちですが、バスに乗って数分、近鉄の奈良駅付近まで来たとき、またマイク越しに「ここで降りて今、前に止まっているバスに乗りなさい。それに乗ればホテルの前を通るから」とわたしたちに声を掛けてくださいました。
あまりの親切に、ぺこぺこ頭を下げまくってお金を払って降りようとすると、「お金は前のバスに払ってもらえればいいから。整理券だけボックスに入れてバスを降りていいよ」とおっしゃるではありませんか。なんてありがたくてやさしい運転手さん!!(笑)
何重にもやさしさをもらったわたしたちは、「ありがとうございます。」「ありがとうございます。」とただただお礼をいいまくって前のバスに乗り換えたのですが、ライブ後の興奮もあってか、このバスの運転手さんのやさしさが身に沁みて、夜闇に紛れてうるうるしちゃいました(笑)
この夜のわたしたちはライブ後でもあったし、特別の感情に支配されていたせいもありますが、昼間もらった土地の人の数々のやさしさや、とどめのバス(笑)体験により、奈良の町に抱かれているような、守られている子どものような、暖かくてやさしい気持ちでホテルに入りました。
そういえば、昼間寄ったTシャツ屋さんでも、サイズのことや茶香炉のことなどを気さくに丁寧に教えていただいたし、コンビニの若い店員さんも、パン屋さんのバイトのおねえさんも、みんなみんな笑顔でまったりと答えてくださり、感じがよかったなあと思ったり。そうそう、コンビニ言葉を聞くことも一度もなかったし・・・。
人口密度が高すぎず、コンクリートじゃない地面がたくさん残っていて、適度に不便さをちゃんと残しているところもいいなあと思います。素朴な町並を見ていると、生活にも工夫の余地がいっぱいあるような気がするし、ひとりになって考える時間だってたっぷりありそうだし、一人が怖くなさそうな気もします。
夜が早い町で(ライブ終わりに町に出るともうすでに漆黒の夜がそこにあります。静かです。店も続々閉まっています)久しぶりに静けさを楽しむことができました。お寺などの建造物はもちろん夜の闇に紛れて静まり返っていますし、自然にしゃべる声も小声になります(笑)居酒屋でと盛り上がろうなんて気持ちにはさらさらならず、せっかくだから一緒に来た友達とじっくり語り合うのもいいね!!という気持ちになります。
244さんが、「奈良に帰りたい」といい、「そこは空気が違う」といっているのを聞いたとき、「気持ちはわかるけど、奈良だって東京だって、大阪だって・・・どこだって多分そんなに違わないよ」という気持ちでいたのですが、奈良に行って来た今は「そうかも」と素直に思えます。やっぱり独特の空気があるなあというのを肌で実感しました。
それは奈良だけのものではないかもしれないけれど、少なくとも奈良にあって、わたしたちが住んでいるところにないものが確かにありました。「古きよき日本」がちゃんと残っている場所に思え、「心のふるさと」を見つけた気になりました。出身者でもないくせに「わたしもいつか、わたしの奈良に帰りたい」とさえ思ったり(笑)
もちろん現在住んでいる人目線で見た奈良はまた違った色をしているのでしょう。よいところもあれば、もちろん不便なこともあるでしょう。
でもでも、いつも244さんが言っている、「奈良には現代人が忘れてしまったものを取り戻すヒントがいっぱいある」という言葉が本気で実感できた気もしました。
奈良の町と人々に触れることができた体験は、とってもとっても印象深い素敵な思い出として残りそうな予感です。
また行きたいなぁ。観光だけでもいいから・・・もちろんライブもあったらいいけど・・・そりゃあ、何回でもライブが見たいけど・・・でも観光だけだって・・・観光地も巡りたいところがいっぱいあるし・・・でもライブもまた行けたら尚いいよね・・・
どこまで行っても堂々巡りなのでした!ちゃんちゃん!(笑)