ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 「ふたたび」

 この曲は「千と千尋の神隠し」の中の1曲です。「いつも何度でも」は、知らない人がいない有名な曲ですが、「ふたたび」の方も、聞けば「あれだね」とすぐ分かると思います。こちらの方は少し大きめの子たちに大人気です。 
 先日のレッスンでこの曲を弾いていたのは、Rちゃん。小さい頃からお隣でかわいがってくれていたおじいちゃんを最近亡くしたばかりです。その他にも家族が順番に体を壊して入院したり、おばあちゃんが認知症をわずらったりして、簡単には慰めの言葉が見つからないような大変なことが次々起きています。彼女自身もストレスのためか、中学入学からたった1年半で、20キロくらい体重が増えてしまいました。どう考えても精神的なもののような気がします。なのに、彼女はいつも明るく笑いながらやって来ます。練習をしてなくても、とりあえず必ずレッスンにはやって来ます。お友達の間では、「面白い子」で通っていて、「そんなに脳天気だから太っちゃったのよ」と言われるのだそうです。そんな話をのんびりしながら、あははは・・と笑っている彼女の横で、いつもこっそり周りの無神経にはらわたが煮えくり返っているわたしです。本人が気にしていないというのだから、わたしの出る幕はないのですが、そんなはずはありません。
 苦しくならないの?と前に聞いたことがあります。するとこの子が言うには「イタイ子って思われたくない」と。ここで密かにわたしの怒りはもっと爆発!この「イタイ」ことを小バカにする最近の風潮が本当にイヤです。もちろん彼女は世間的に言われているような定義のイタイ子ではありません。だからこそ、「イタイ」と思われるのでは?と常に気にしているんですから。でも、そうやって本当に苦しい時に本音を吐くことを許さない、心の奥底に分け入ることも分け入られることも極端に嫌い、怖がる風潮が本当にイヤです。実はわたしもそういう人間の一人だ・・・と思うことがよくあって、それが益々カチンと来ます。
 その彼女がにこにこと、「『ふたたび』って本当にいい曲だね。なんだかこれからは、いいことがありそうな気持ちになれるもん。言葉で『またいいことあるよ』って言われるとそんなもんないよ・・・って反発しちゃうけど、音楽だとなんでか押し付けがましくないから・・しみるよね」と言いました。同感です。良いタイミングでこの曲を宿題にしてあげたかも。
 さて、次のレッスンのNちゃんが、この「ふたたび」を横でじっと聞いていました。ひとりになった彼女は、なんだかため息をついています。実は彼女、最近「NEWS」のファンになったばかりだったのです。初めて好きになったアイドル。うちの生徒たちは先生が「こう」なのに、「ジャニーズ好き」はなぜか皆無だったので(アーチストファンばかり)彼女がチェリッシュの楽譜を持ってきたときはなんだか同士ができたようでうれしかったのです。
 ところが、彼女は「NEWS」の活動休止のニュースをインターネットで知り、とてもショックを受けていました。お母さんに言ったら「そんなねえ、テレビの向こうのことで、アンタが落ち込むなんておかしいよ、バカじゃないの?!」と言われ、余計に落ち込んだらしいです。「そりゃ、大ショックに決まってる!」とそれがKinKi Kidsだったら?と想像しつつ言ったら、大人のわたしがそんなことを言うとは思わなかったらしく、びっくりしつつうなずいてました。テレビの向こうであろうが、なかろうが、一生懸命応援しているグループが活動休止をするなんて、哀しくないわけがありません。
 その彼女「ふたたび」を聞いて、「いい曲すぎてちょっと泣きそうになったんだ〜!」と。「NEWSにもふたたびが来るかなあ?」・・と。「そりゃあ来るに決まってる、これからきっといっぱいがんばって這い上がってくるよ」と慰めつつ、来週彼女にも「ふたたび」のコピーを渡すことになりました。この曲が彼女にも無言のエールになるといいな。
 こんな風にシチュエーションを選ばずに、誰に対しても平等で・・・無言でいつも支えてくれる音楽が、わたしはとても好きなのです。