ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

2021奈良天川旅日記 その6  約束の…

コロナ禍になる前に、天川村の洞川地区のある方と交した約束がとても気になっていました。

その方は洞川温泉街で喫茶店を娘さんとお二人で営んでいらっしゃいます。

宿を出て温泉街をにぎやかな方へと歩いていくと、コーヒーが美味しい喫茶店がいくつかあって、その中の一つです。

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店主さんは、うちの母とわたしの間くらいかな?というお年の笑顔が印象的な女性の方。

一番最初に出会った頃はまだ今は亡きうちの愛猫がまだまだ元気で。

そのコと同じ名前の喫茶店がそこにあったら…

そりゃ素通りできないよね!ということで(笑)

親しみを感じつつ「お茶でも飲んでいく?」と入ったのがはじまりだったと思います。

(喫茶店の名前はあえてぼやかしてありますが、最近のふぇるまーたで、夢に登場したあのコと同じ。詳しく知りたいという方は個人的にお尋ねくださいね、笑)

店の入り口には、洞川のちょっとユニークなステッカーの自販機があります。

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ごろごろ水で作ったコーヒーがとてもおいしくて。

たい焼きとか、ホットケーキとか、ちょっとだけ歩き疲れた後の休憩に最適なスイーツもあっておだやかな午後を過ごすのにもってこいだし。

天川村が紹介された雑誌やグルメ誌が何冊か置いてあって、ぱらぱらと眺めたり。

地元の小学生がお年寄りの声を集めてまとめたのであろう手書きの「天川の方言辞典」も並べてあって、おもしろくて思わず読みふけったり。

そのお店が好きな理由はいくらでもありますが…

ふとお店の壁を見渡すと、いくつもの版画が飾られていて。

その絵たちがとても素敵だと思っていたので、ある日「これはどなたの作品なのですか?」と尋ねたことがありました。

すると店主さんが「実はわたしらの身内の者の作品なのですよ。」と、にこにことおっしゃるではないですか。

とりわけオットとわたしが気に入ったのは「蔵王権現さま」の版画です。

片足を力強く上げ、片手に三鈷杵をもっていて。

厳しいお顔でぎゅっとにらみを利かせています。

見ていると大好きな吉野の金峯山寺をも思い出される蔵王権現の厳しく強いそのお姿に、いっぺんに惹きつけられてしまいました。

で、最初は冗談半分にお店の方も交えた雑談の中で「この絵がうちにあったらどんなに幸せだろうね」なんて話していたら。

「『この絵が欲しい』と注文してくれれば、親戚の作者さんに版画を刷ってもらって額に入れた状態でなら譲ることもできるよ?」とおっしゃり。

「出来上がった額を、ここ(喫茶店)までなら車で作家さんに運んで来てもらえるけど、お宅まで配送みたいなことは、わたしらにはできんのよね。」とおっしゃるのです。

一見したところ、絵はとても大きくて、額はアクリルではなくてガラスが入っているのでとても重そうです。

お店の方は「(わたしたちが)車でここまで来てもらえたら簡単なんだけどね~」と言われたのですが、そこまで運転好きというわけではないオットは、埼玉から天川まで車でというのはさすがに無理だと言い…

そうだよね~ムリだよね~(ため息)ということで。

一旦この話は終了したかのように思われました。

ところがです。

家に帰ってから

「それでもやっぱり欲しい!!」

「これが家にあったらどんなに素敵だろう!!」

という思いは、わたしたち夫婦の中で、とりわけオットの心の中でどんどんふくらんで行って。

それから2~3度目くらいの天川旅の途中、やっぱりこの喫茶店でお茶を飲んでいたわたしたちは、とうとう心を決めて。

「次回天川旅行へ来る時は、どうにか策を講じてこの絵を購入したいです。」

「なんとしても持って帰りますから!」と、お店の方にオットが宣言?お願い?したのが、世の中がコロナの波にのまれることになる直前の春のことでした。

お店の方もいつもの笑顔でにこにこと喜んでくださって。

遠からずまた天川に行くだろうし、やがてあの絵はうちにやってくる未来なのだなあ…なんて。

簡単に考えていたのが大間違い。

世界中があっという間に思いもよらぬコロナという未体験ゾーンへと突入してゆき。

もちろん旅行どころではなくなって(涙)

そこから我が家時間では、永遠?と思えるくらい長いこと時間が経過して。

(実際のところは、1年半くらいなのですけどね、笑)

やっとやっと天川に行けるかも?となった時に、真っ先に思い出されたのがこの絵を買わせていただく約束のことでした。

オットは旅行の日取りを決めるやいなや、すぐに喫茶店に電話して。

まずはご親族に注文できるかどうか伺いました。

すると…

ご親族の方はすでにかなりご高齢なのだそう。

一枚分でもお金に替えてあげたら喜ぶと思うし、お店に今掛けてあるその絵でよければすぐにでもお譲りできます!とおっしゃってくださるではないですか。

おそるおそるお値段を聞いてみたら、もちろん(我が家的には)安くはないですが、買えない額ではなかったし。

ふたつ返事でその絵を譲っていただくことが決まりました。

茶店が配送は扱っていないというのなら、レンタカーでわたしたちが山の下まで絵を運び、宅急便屋さんに持って行けばいいのでは?…と思い付き。

すごくいいことを思いついた気になったわたしたちは、即、奈良市内のあちこちの宅急便やさんに問い合わせたのですが…

「額に入った絵を送りたい」と言うと「それはちょっと…」とどこに聞いても同じ回答が帰って来て。

「破損とかのトラブルが怖いから、絵だけはムリです。」と口をそろえて言われてしまい。

えっ!?そんなに大変なの?そこまで配送が大変だというのなら仕方ない…

ということになって。

「新幹線で手持ちで持って帰るしかない!!」と決めたのが旅行に出る直前のこと。

とはいうものの新幹線まではなんとかなったとして、都内から埼玉への電車は平日の通勤時間帯だし、あんな大きなものを電車で運ぶのも気がひけるよね~とか。

コロコロもあって絵もあって、そんな大荷物で無事に帰れるかなぁ?大丈夫かなぁ?とか…

心配事はまあ山のように次々と浮かんできます(笑)

とはいうものの。

もう乗りかかった船なのだし「とりあえずは絵を手に入れることからだ!!」ということで。

天川に着いた翌日の午後、真っ先に立ち寄ったのがこの喫茶店だったというわけです。

さて。

お店のおばちゃんは、わたしたちが「今日あたり来るだろう」と予想して、梱包材とか絵を入れる箱とか絵を包むものなど、あらかじめたくさん準備して待ちかまえてくださってました。

まずは昼食代わりのお茶と軽食をいただいて。

終わった頃を見計らい、平日午後でほぼ貸し切り状態のようになっていたテーブルに、梱包材やら新聞紙やらをいっぱいに広げてくださり。

わたしたちはまるで家にいるような感覚になって、お店の方は娘さんも呼んでらして、みんなでわいわい梱包の儀が行われました(笑)

「ここに紐を掛けとけば持ちやすいんやない?」と紐を渡してくださったり。

「これ使ってない布だから使えへんかな?」と大きな風呂敷のような布を持って来て、「これでもう一重くるんどけば?」と言ってくださったり。

「わあ、ナイスアイディア!ありがとうございます!」なんて。

まるで親戚のおばちゃんと話しているみたいなテンション(笑)

あーでもない、こーでもないと話しながら…

それはそれは至れり尽くせり。

こんなに良くしてもらっていいのかしら?という感じ。

ありがたいことだなぁ。

「新幹線で運びます!」と決死の覚悟さながらなわたしたちを(笑)まるで家族のように親身になって心配し、助けていただきました。

みんなで絵を大事に大事に梱包して紐掛けして。

お金を払い、お礼を言うべく待っていたら…

さらに奥から筒に入った絵を数枚もって出てらして。

「こっちは表装していない、ただ刷っただけの作品やけど、よかったら一緒に持って帰ってくれへん?」

「欲しいと言う方に持って帰ってもらえたら、ここで筒に入ってずっと置いておかれるより、ずっと作者さんもうれしいと思うから」

そんな風にいただいた作品の一枚が二枚目の版画です。

これも何かのご縁かも?ということで、とてもありがたく頂戴しました。

続きの旅の中でも、常に頭の中にどうやって絵をもって帰るか?があって(笑)

森の中を歩いている途中「いっそコロコロの方を自宅へ送ってしまうのはどうだろう?」とふと思いついたりもして。

少しでも荷物が減れば楽なことは間違いないわけで。

「レンタカーを返す前に、山を降りたところで宅急便屋さんを探して他の荷物を出しちゃうか!」なんて話していたら。

3泊目のお宿のご主人が「天川村からでも宅配便は出せますよ」と宅急便を扱っているガソリンスタンドを紹介してくださって、またまた新しい展開が!!!

このようにただただ流れに身を任せ、村の方々とたまたま話したり相談したりしたことが、なぜかさまざまに転がっていくのが、天川という場所なのだ!!

ここで話しかけたら迷惑では?とか。

あちらもお忙しいに決まっているから、自分でなんとかしようとか。

都会だったらいかにも考えそうなことを、ここでは思わなくなっていて。

なぜかいつもの人見知りも発動することなく。

いつでもどこでも「10年前からの知り合い?」というくらいの気安さで話が始まるから不思議です。

さらに。

紹介されて行った宅配もやっている龍泉寺の通りのガソリンスタンドの奥さんに

「ほんとはこちらの絵も預けたいんですけど、あちらこちらで断られてしまって…」と話していたら。

「そっちの絵も他の荷物と一緒に宅配で送れるかどうか、うまくできそうな気がするから、ためしにやってみましょうか!」と、おっしゃるではありませんか!!!

そうなのです。

わたしたちは、はなから洞川のような高い山の上で「絵を送る」などというちょっと「ややこしい」ことをお願いするのはきっと無理だろうと思い込んでいて。

山を降りさえすればなんとか他の手があるのではないかと。

とんだ思い違いをしていたというわけです。

むしろ山の上の方々の方が断然細やかに対応してくださって、どんなに助かったかしれません。

気づけばすんなり天川から埼玉の家まで宅配してもらえることになって、急に身軽になったわたしたち。

びっくりするやらありがたいやら。

狐につままれたような気持ちになったのでありました。

後から考えればさもありなんで。

情に厚くて困っている人を見ると誰にでも手を差し伸べてくださる方だらけのかの地だからこそ実現したということで。

梱包材を用意して待っていてくださった喫茶店の方。

さりげなく話に入って来られて天川村の宅配業者を教えてくださった宿のご主人。

絵の宅配も「一緒に出してみよう!」と引き受けてくださったガソリンスタンドの奥さん。

たくさんの天川の方のご厚意により、ひとつずつ扉が開くように困難が解決していって。

なんとコロコロ一個とほとんど一緒の金額で、絵もまた傷一つない状況で翌日のお昼には、我が家にちゃんとやってきました。

そんなこんな、さまざまな紆余曲折とやさしさと奇跡の結晶のように、無傷で我が家にやってきたのがこの版画たちです。

2枚目は筒に入っていた方で、家に帰ってきてから額に入れました。

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我が家の守り本尊さま。

これが家にあって、いつでも眺められる幸せを噛みしめています。

元々「蔵王権現」は修験道のご本尊で。

役行者が吉野で修験中に示現したという伝承があるそうです。

怖くはないけれど、ひたすらに厳しいお顔をしているのは

「やさしいお顔の仏さまでは乱世を救えない。」

「世に満ちた悪を打ち払うような強い仏を!!」

役行者がそう望んだ時に現れたからだと言われているのだそうです。

うましうるわし奈良のサイトには

「だれだおまえを苦しめるのは。もしや自分の心ではあるまいな」

やさしいだけの仏ではなく、魔を叩き割る怖い仏。それは人間が求めたものだった。

こう書いてありました。

この言葉の意味するところに強く強く惹かれます。

ガーンと殴られたような衝撃です。

「実は魔は自分の中にある」

なるほどなぁ。

眺めるたびにこれらの言葉を思い出せるのは、とても心強いことのように思えました。

特にわたしはここのところ自分の弱さにがっかりするばかりの日々なので。

この絵を見てまた勇気を絞り出すのだ!!(笑)(笑)

さて。

天川村から帰ってすぐ、早速お礼状を出したらとてもご丁寧なお手紙が帰ってきました。

「天川にいらした際はまたきっと喫茶店に寄ってくださいね。」と書いてあり。

その言葉がどんなにうれしかったことか!!!

また天川を旅したら必ず寄りたい場所が増えました。

親戚のおうちがひとつ増えたかのようなうれしさです。

そして次回かの地を訪ねたら、喫茶店はもちろんガソリンスタンドの奥さんやお宿のご主人や…さまざまにお世話になった方、おひとりおひとりにお礼を言いたいし、またのんびりとよもやま話をしたいものだと強く思っています。

というわけで今回のこの日記は、また一つご縁がつながった「約束の版画」にまつわるお話でした。