ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 仏果を得ず

仏果を得ず

仏果を得ず

この本はちょっと前に読み終わっていた本です。
なぜこのタイミングでこの本の感想を書こうと思ったかというと、単に今日友達に貸そうと思っているからですが(笑)たまたまタイミングがよかったので、ちょっとだけ最後にKinKiファン的蛇足をくっつけました。
前半は普通の本の感想です。一般の方で偶然ここを見て、この本の感想を知りたい方は続きを読むの前までで大丈夫です。
残りの文章は読みたい方だけどうぞ。
さて、感想本編。
大好きな三浦しをんさんの長編小説だし、あちこちで「おもしろいよ〜」と聞いていたので、とても読みたいと思っていました。
Amazonの商品の説明によれば

内容(「BOOK」データベースより)
“好き”が過ぎるとバカになる。でも、そんなバカならなってみたい。文楽に賭ける若手大夫の熱い青春。直木賞作家が愛をこめて語ります。

と書いてあります。
文楽というのは、人形浄瑠璃のことで、主人公の健(たける)は修学旅行でのコースにまたま文楽鑑賞が入っていて、イヤイヤながら見に行かされます。
ところが、ここで人間国宝の笹本銀大夫と出会ってしまうのです。彼の芸に触れ、心底魅せられた健は、高校卒業後笹本銀太夫の弟子になり、日々芸の修行をしています。
人形浄瑠璃には「人形遣い」と「三味線」と「太夫」という三つの役割があるのだそうです。
師匠や健は浄瑠璃語りです。浄瑠璃語りは1人で物語を語り、情景描写から始まり多くの登場人物を語り分けます。
物語は、この修行中の身である健太夫が、師匠に「今後は三味線の兎一郎と組むように」と言い渡されるところから始まります。
兎一郎は変人と有名で、しかも芸道の鬼と恐れられている先輩です。神経質でとても頑固そうな性格だし、主人公はなぜこの先輩と自分が組むと決められたのか、まったく納得がいっていません。どうやらそれは相手も同じらしいですが、師匠が決めたことに否はありません。
主な登場人物は、師匠や兎一郎そして文楽の先輩方、ボランティアで文楽を教えている小学校の児童とその子のおかあさん。健の修業の日々が様々なエピソードとともに描かれています。
設定がこの場所だけに紹介文に「青春物語」と書いてあるのが不釣り合いな気がしますが、読んでみるとこの物語はまぎれもなく主人公健の青春物語です。
そして、一途に芸の道をひた走る健、相方とだんだんに心を通わせながらひとつの世界を作り上げていくその情熱には静かな感動を覚えます。
厳しくもやさしい伝統芸能の道の先輩方とのやりとり、普段はわがまま三昧で気のいいおじいちゃんなのに、一度舞台に立ったら観客を魅了してやまない人間国宝の師匠へのあこがれ。芸の道の厳しさ。一旦芸のことになったらとことん厳しい師匠。燃え上がる恋。でも、その恋をもどこかへいってしまうほど、寝食を忘れてしまうほどの芸への激しい情熱。
それらが堅い文章ではなくて、しをんさんらしいユーモアにあふれたタッチで描かれていて、気がつけば半日くらいでガーっと読んでしまいました。
また登場人物たちが老若男女関わらず、みんなみんなとても魅力的な人物ばかりです。
一昔前のトレンディードラマによくあるような同世代のみの群像劇がどこか嘘くさく感じ、いろいろな世代の人間が混ざりあうドラマが圧倒的に好きなわたしとしては大好物のパターンでした。
わたしも音大受験の前後や、学生時代、ひたすら音楽のことばかりを考えて考えて暮らしていた日々があるので、程度の差はあっても、芸ごとに夢中になる気持ちや、師匠が絶対でなんとか師匠に近づきたいという気持ちは容易に理解ができるのですが、「ああ、青春ってこういう風に、一筋の道を行き先も見えずに、ただただひた走るものだったなぁ…」なんて思い出したり。
さらに、赤の他人と有無を言わさずいきなりコンビを組まされて、ずっとひとりの人とひとつの世界を作り上げていくことのむずかしさもなんとなくですが理解ができるような。
ピアノで言えば連弾や2台のピアノによるソナタとかコンチェルトなどがそれに当たるのだと思いますが、たとえ一緒に演奏する相手が親友であっても…息を合わせ、心を合わせ演奏することはそんなに容易ではありません。
それはきっとどんな世界でも同じだと思うし、それが伝統芸能の世界なら尚のこと。
このどうみてもむずかしく気の遠くなるような作業を、兎一郎と健太夫のふたりは、表現者としての徹底的なストイックさを持って追究していきます。その描写は読んでいてとても清々しかったです。
わたしはもちろん人形浄瑠璃のことはほとんど知りませんが、知らなくてもとても楽しく読めましたし、今後機会があったら文楽を見てみたいと思うようになりました。
特に物語の世界や登場人物すべての心情をひとりの語りの力でひたすらに表現するという太夫の活躍を、相三味線との息のあった芸の素晴らしさを、人形遣いの名人芸を…体感してみたいと思いました。
作者の三浦しをんさんが人形浄瑠璃にはまってらっしゃることは、彼女のエッセイを読んで知っていたのですが、その趣味がこんなに素敵な作品を生んだということもとても素敵なことだと思いました。
結構彼女の作品の中では有名な方だと思うので、もう読んだことがある方がたくさんいらっしゃるのではと思いますが、読んだことがない方にはぜひぜひオススメの一冊です。
さて、一般的な感想はここまでとして…
続きを読むかは蛇足ですので、読みたい方だけどーぞ。
わたしがこの本に夢中になっていたのは夏の暑い盛り。
7月のSHOCKを見に行き、テレビでNHKのSHOCK特番を見て、代々木のケリーライブに参戦したりしていました。
KinKiさんたちはそれぞれがそれぞれのフィールドでとことん闘っているのが伺われ、それぞれの成果にすっごく感動したのもこの頃です。
太夫がただひたすらにまっすぐに芸に精進する日々を送る描写に、兎一郎とふたりでひたすらに芸の道を追求していく姿に、ついついわたしの好きな方々が重なって見えて仕方ありませんでした。
彼らに限りませんが、こうやって芸ごとでごはんを食べている方々は、みんな目に見えないところで血のにじむような苦労をしているんだろうなぁと…テレビを見てもお芝居を見てもライブを見ても、どこにいてもそんなことを考えていたのでした。
我らがKinKiさんたちは今年はずっとソロ活動が多かったので、ちょっとさびしくもある夏でしたが、一方で彼らもまたコンビとしてもう10年以上もの年月、ずっとずっと息を合わせ精進を重ねてきたのだなぁということを実感します。
中学生くらいの多感な時期に、ただ名字が同じということだけで偶然に引きき合わされた彼らが、30歳を過ぎた今までに積み重ねてきたものがどれほどのものなのかを考えると、彼らにとってはソロがどれだけ続こうがそんなこと大した問題ではないのだろうな〜と思ったわけです。
こういう歴史の積み重ねの中で、ふたりになった途端に醸し出される独特の彼ららしい雰囲気が生まれたのだろうなぁ…
そんなことも静かに考えておりました。
そしてそんな日々の間にも着々と合作のCD作りが進んでいて…わたしたちの手に届く日も間近!!
今日、携帯メールで送られてきたURLに飛んで最新のKinKiさんたちのメッセージに触れながら、「ああ、やっぱり彼らは彼ららしいやね。これぞわたしたちのKinKiさん」と思わずニコニコしちゃいました。「あうんの呼吸」という言葉は彼らになんとぴったりとはまることか!!
ああ、いろいろなことが楽しみです。年末に向けて、わたしも今のうちにやれることをやらなくては。