ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 『劇団ひとり』くん

 わたしが密かに天才じゃないかと思っている、小3のFちゃんが「先生、これあげる」と言って柿ピーをくれました。「なんで?」とココリコの田中さんみたいに、「鳩が豆鉄砲顔」で聞いたら、にっこりと「おいしいから」ですって。おじいちゃんの食べていたおやつをひとつ、分けてもらってきたらしいです(笑)飴、折り紙、アイロンビーズ、お手紙。いろいろなものを生徒から「先生にあげる」ともらって来ましたが、柿ピーはもちろん始めてでした(笑)おいしくいただきます。
 さて、Dくんの話。彼は4年生です。この子は3歳半の時、おねえちゃんと一緒にうちの教室に通い始めました。おかあさんはフルタイムで働いていらして、しかも経理の仕事をしているので、残業が多いのです。「なので、託児所とわたしが帰って来るまでの間のつなぎとしてピアノに行かせたいんです。小学校には学童があるので、その時期まで面倒を見てくださればいいです」とはっきりおっしゃって、そのずけずけした言い方にカチンときて、なんだかなあ?と思いながらレッスンを始めたのです。その上「上達が遅かろうが、なんであろうが、全く文句は言いませんから。先生が自由にやってくれていいんです」なんておっしゃるものですから、正直あきれていたわけです。
 そんな風にスタートしたDくんのレッスンは、最初の半年こそ、話しかけても知らん顔されたり、歌おうと誘っても、手遊びをしようと言っても、弾いてみようと言っても「イヤ!イヤ!」ばかりで大変でした。男の子のせいか、言葉の成長ものんびりだったし、かわいい楽譜を見せても、全く無反応でどうして引き受けてしまったのかと後悔したものでした。
 ところが、時間だけはたっぷりあります。じっくり時間を掛けてちょっとずつ仲良しになり、遊びをふんだんに取り入れたり、進度に神経質にならずにゆっくり楽しいこと優先でレッスンをしているうちに、いつしか彼がすっかりと音楽好きの男の子に変わって来たのです。スタートが4歳前で、それこそ物心つくかどうかのあたりから週に1度、必ずピアノと向き合っているのですから、当然と言えば当然です。
 そして当初の約束の小学校入学時にはむずかしい曲も余裕で弾けるようになって、もはややめたいなんて言うはずもなく、「特技がピアノ」という男の子に大変身していました。こんな風に転がる可能性もあるのですから、やってみるもんだなと思います。すごいです。
 気がつけば徐々にお母様とも仲良くなったわたしは、彼女とDくんの成長について軽口を叩き合えるほどになっています。出会いは最悪でしたが、最初に断らなかったのは結果的に、正解でした。マイフェアレディーではありませんが、彼はわたしの思い描いていたとおりの、音楽大好き、ピアノ大好きな男の子に成長してくれているのですから。
 ところで、彼はとってもかわいい顔をしています。小柄で細くて、どんぐりみたいな大きな目。人懐っこい性格。その上、手遊びや音楽遊びが大好き。「絶対、この子は将来ジャニーズよ」とお母様がおっしゃり、わたしも賛同!もしかして、「ジャニーズジュニアを育てたピアノの先生」っていう肩書きが、わたしに加わったりして?!と密かに期待していたのです(ウソです!)
 それなのにそれなのに…つい最近、お母様が不穏なことを言い出しました。「先生、Dだけど、ちょっとジャニーズ系じゃない気がしてきたわ」と言うのです。「そうかなあ?」と続きの言葉を待っていたら、意外な一言が。「Dってさ、どうみても『劇団ひとり』にそっくりだって気がついたの」ですって!!「え〜?!」
 そうかなあ?と半信半疑だったものの、ここのところ朝ドラで活躍している劇団ひとり氏をまじまじと見ていたら、確かにDくんは、彼にそっくりな気がしてきました。(よく見ると、劇団ひとり氏もかわいらしい顔をしています、笑)「果ては、お笑い芸人かしらん?!音楽漫談?」相変わらずとことん自由人のお母様が、笑いながらそんなことを言い、「いえいえ、クラシック界の貴公子って呼ばれているかもしれませんよ。」なんて、混ぜっかえすわたし。本人不在の(笑)妄想話はどこまでもふくらんでいきます。
 もちろん、冗談はともかく、どんな道を選んでくれようが、ピアノや音楽を愛する人でいてくれれば、彼の音楽を育ててきたわたしとしては、十分にしあわせなのですが、なんだかちょっとおかしくって、朝ドラを見るたびくすくす笑ってしまいます。
 相変わらずおかあさまは、言いたい放題ですが、息子の方は至って堅実で、ピアノに関してもクソがつくくらい真面目です。この間、本人に「将来の夢は?」と聞いたら、「きっとパパみたいな公務員かな?ピアノは趣味でやってるかもしれないけどさ。」ですって。こんなにタイプが違う親子も珍しいなあと笑っています。