ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 生協の白石さん

生協の白石さん

生協の白石さん

 ちょっと前のことですが、やさぐれ気味の中2の生徒Sちゃんがため息をついて、今の友達関係が行き詰まっていると言いました。そのグループは面白い子ばかりで、なにかと盛り上がって、グループの中にいると楽しくて仕方ないんですって。みんな人間観察が鋭くて、共通の知り合いたちについて「言えてる、言えてる、わかる、わかる」と言い合っている時、一体感を感じてしあわせなんですって。でも、風邪を引いて休んだりするととても不安になると。自分がその場にいないと何を言われているか、いつ自分がネタになって笑われているか、油断がならない気がするんだそうです。
 「先生、人ってさ、所詮底意地の悪いことを言ってる時が一番楽しいのかな?かといって、真面目な子グループを見てるとちっとも楽しそうじゃないからヤダ!〜楽しく生きたいと思ったら多少の犠牲は仕方ないの?」と、どんどん話が大きくなって来ます。「そりゃ違うでしょ!」ともちろん言いたいところですが、彼女を納得させるうまい返答が見つからず、自分の力が足りないことを痛感したのでした。
 前置きがとても長くなってしまいました。その時はうまく答えられなかったわたしですが、この本を読むと、「底意地の悪いことを言わなくても十分におもしろく暮らせるし、おもしろい人だっている」と心の底から思います。辛口で責め立てなければ面白くないなんて、そんなのはとんでもない勘違いです。彼女にこの本を薦めてみようと思います。
 白石さんについては、今マスメディアでもかなり有名になっているし、大学でサイン会も開かれたそうですから、ご存知の方も多いと思います。白石さんは大学生協の職員で、この本は、学生から出された「生協への質問・意見・要望」のひとことカードに対する白石さんのコメントで埋められています。
 「こういうものを仕入れてください」という真面目な要望から、わざと答えにくい質問をする人、ただ白石さんに構ってほしいだけでしょ?とはっきりわかるような困った質問まで様々なカードが寄せられているわけですが、それぞれに対する白石さんのコメントが、それはそれは気が利いていて、的確で面白いのです。もちろん「毒」は皆無ですが、電車の中だっていうのに読んでいて思わず吹き出してしまう面白い回答がたくさんあります。笑点大喜利を見ている気分で「うまい!」とうなってしまうものも多いです。わざとですか?と思うような知能犯の困ったちゃんの質問にも頓知が利いた素敵なコメントでうまくきり返していて、思わずニヤリとさせられてしまいます。困ったちゃん自身もコメントを見て笑顔になっているに違いない、やさしく温かいコメントです。
 この本を読んでいて、「誠実」ということがこんなにも素敵なことだったんだなあとしばらくぶりに思い出しました。人間年とともにどんどん皮肉っぽくなっていけません。自分が恥ずかしいです。わたしの日記を訪れて下さる方たちは温かくてやさしい方が多くて、返答に困るようなコメントをもらったことはありませんが、日常的には、ひどい嫌味や、途方もなく皮肉っぽい言葉で不愉快な思いをすることがたくさん転がっています。そんな言葉を投げつけられたとき、白石さんみたいにうまい言葉で返せたら、きっと世の中もっと平和になるだろうに。自分もそうだからわかるのですが、時として、ひどい言葉を投げつける方も、いっぱいいっぱい、どん底だったりするのです。そこで「嫌味返し」をされると意地になってしまうのですが、白石さん流の返してあれば、笑いながら冷静になって自分が恥かしくなり、素直にごめんなさいと言えそうです。
 子供に対する接し方もそう。仕事などでいっぱいっぱいになると、ついつい子供の話を聞くのがうわの空になります。「な〜んで、そんなことを今言うかな?」とか、「ちょっとは黙っててくれない?」とか、それはそれは語尻のきつい否定的な言葉を投げてしまうことが多いです。白石さんがどんなカードにも誠実に答えているのを見ると、とりあえず「話を聞こうよ」という気持ちになります。げらげら無邪気に笑って読んでいるようで、いろいろなことを考えさせられる本でもありました。
 ただ、ここまでの話だけでは片手落ちで、本当の意味で白石さんがすごいのは、「優秀なセールスマン」であると言うことだと思います。おもしろおかしくカードに答えているだけのようでいて、マーケティングにも余念がなく、商品を売り込むことも忘れません。「売ってやるぞ」という態度はちゃんと前面に出しつつ、顧客(この場合、大学生たち)のニーズには誠実に応える「すご腕の仕事人」であるところが、何をさて置いても一番カッコいいところです。「頭の切れる優秀な職員白石さん」が先にあって、しかも面白くて誠実っていうところが彼の最大の魅力なんじゃないかと思います。
 この本が発売になる前に、白石さんのことはブログなどであちらこちらで紹介されていたそうです。白石さん自身はそのことを知ったとき、どうなることかと思ったそうですが、農工大の学生たちもすばらしくて、みんな白石さんのプライバシーをきちんと守り、節度をもってネットの上で紹介したのだそうです。そんなところもいいなあと思います。
 なんだかいろいろいろいろ書きすぎてしまい、我ながらしゃべりすぎ、興ざめという感じがしていますが、とにかく読んでみるとわかります。単純におもしろいです。