ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 「たとえば・・・たとえば。」

 「あのう・・・」と珍しく無口なNちゃんが重い口を開きました。「どうしても、この曲が弾いてみたいんです。」タイトルを聞いてもちっともピンと来なくて、歌ってもらってやっとわかりました。「ああ、あれね。」「ENDLESS STORY」映画「NANA」の挿入歌でREIRAが歌っているあの曲です。ほとんど自己主張をしない彼女が弾きたいというのだから、よほど気に入ったのだろうと思い、「探してあげるね」と約束しました。
 その時に確かにタイトルを聞いたのですが、レッスン室を一歩でるとすぐに忘れてしまう「にわとり」のわたし。
 アネに「たとえば〜たとえ〜ば〜たとえばたと〜えば〜たと〜えば〜。っていう奴、なあに?」と聞くと「バカ??なんでそんなに『たとえば』づくしなの?」と呆れるアネ。だって歌詞は、そこしか覚えていないのです。しかし「たとえば」だけでもなんとか曲名はすぐにわかってくれて無事に本屋でこの曲の載っている楽譜を見つけました。
 とりあえず今日彼女にコピーを渡してから、わたしもただ今練習中です。彼女が最初に持ってきたとき、「おお、すごい」と思われたい。「こんな風に弾けたらいいな」と言われたい、歌詞は覚えないくせに見栄っ張りなわたしです。
 実は彼女はこの間「いじめっ子だ」と友達に言われてしまったその子です。結局あれ以来、双方から何も話を聞いていません。わたしはピアノの先生だし、双方がわたしの生徒である以上、どちらにも肩入れしないと決めたのです。話をしてくれば、聞くぐらいならできるかもしれないけれど・・・。
 ちょっと前に別の生徒から、Nちゃんが先生に呼び出されて泣いていたと聞きました。彼女はとても口下手だから、自分の思いをきちんと先生に言えたのかしらん、本当は彼女の側にだって、反論したいことがあるのでは?と心配でたまりません。それと前後して、たまたまお会いした彼女のお母様が、「四六時中黙ってピアノに向かってるんですよ、どうしちゃったのかしら?」とおっしゃってました。ピアノが彼女の気分転換になっているといいな。ピアノが彼女を支えてくれているといいな。
 「ENDLESS STORY」はピアノの音色がよくあう素敵なバラードです。月刊ピアノという雑誌に載っていたのですが、アレンジもいいし、中級程度のレベルで弾けるので趣味でピアノを弾く方にもお勧めの楽譜です。
 ところで、なんとかそれなりに弾けるようになったので、先ほどアネを呼んで、ちょっとだけ聞いてもらいました。「ねえ、あれ、あれやるから聞いて。『たとえば〜たと〜え〜ば〜』っていう奴。」やっぱり歌詞は覚えていません。楽譜にも載っているのですが。「ああ、あの『たとえば』の奴ね」あきらめたアネがそうつぶやきながら聞いてくれました(笑)