ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 来たね!Nちゃん!

 夏休みに入って、(同級生の生徒の話では)ますます行動が怪しいらしい、中3のNちゃんが来るかどうか、ず〜っと気になりつつ迎えた午後7時半。予定時刻を10分たっても現われず、すっぽかされたかなあ?と思っていたらあきらめた頃にハアハア言いながら、自転車を飛ばしてやって来ました。
 噂どおりか〜なり毎日遊んでいるようで、目にクマが出来ていたし、練習もあんまりしていなかったけれど、とりあえず全部の曲をふたりでさらい、レッスンの世界に引き戻す作戦に出ました。
 ギロックの「Night Song」という曲を弾きながら、「こういう重低音を十分に響かせる曲ってなんとなく癒されない?!夜のふところに抱かれるような気持ちにならない?!」と言ったらすごく繊細な顔をして、小さく頷いていました。親に叱られて深夜に近い夜、家路を急ぐ自分にとっては、「夜はやさしくなんかない」なんて意味のことを言って力なく笑ってました。
 わたしは彼女の親という立場ではないので、ことプライベートに関しては、ひたすら否定も肯定もせずに話を聞くだけ、敵には回らない、逃げ場をふさがないと決めているのですが、今日は彼女の顔を見ていたら、なんだかあまりにぎりぎりでせつないです。
 続くソナチネのロンドは全体に軽いけれど、強弱の幅が広くてジェットコースターのような趣のある曲なのですが、一緒に譜読みをしているうちに目がどんどん輝いてきて、帰る頃には明らかに曲への興味で顔が輝いていました。
 全曲をたった2回片手ずつさらっただけで、ほとんどノーミスで強弱にまで気を配って弾けてしまうその才能が惜しいなあとつくづく思っているのですが、彼女はそのことについて、どう思っているのでしょう?!彼女の性格を考えて、極力褒め惜しまないように気をつけているのだけれど(笑)
 そういや、わたしも中学生のある時期はあんまり練習に身が入らなかったなあなんて、思い出したりして。いつか彼女が音楽に本気になった時、最低限の指の運動能力を錆びつかせないでおけば、たやすくピアノに戻れるはず。そう思って今は忍耐のときです。
 途中、携帯のバイブレーションに気づきました。トートバックの中でしつこいくらい何度も何度も小さな音を立てていて、切れたらまたかかってきます。ソナチネの1曲は長いので、どうすることもできない彼女とわたし。あまりにしつこいので、曲が終わるや否や、「出たら?」と言ったら、ちらっと着信を見て「家からだからいい。」とぼそっとひとこと。
 彼女が今日ピアノのレッスンの日だということを、おかあさま自身が忘れてしまい、彼女の現在の居場所が気になって、何度も呼んでいたのだろうと思いました。毎晩こうやって必死に娘に連絡を取ろうとしているのかなあと思うと、おかあさまの気持ちになってちょっと心がずきんとします。 
 その一方で、そんなに遊び呆けている毎日なのに、ちゃんとわたしとのピアノの約束を忘れずに覚えていて、誰に強制されたわけでもなく、とりあえず必死の形相でやって来たんだなあと思うと、彼女がかわいくてたまらない気持ちにもなって、とっても複雑な心境でした。来週も、必ずおいでよ!