ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 てぶくろ

 一人の生徒のレッスンが終わって出て行ったら、次の子がおいおい泣いておりました。どうしたの?!と声を掛けると、どうやらお母様と激しくもめています。どうしたのかと思ったら、小2の彼女、どうしても手袋を脱がないとがんばっていたらしいです。お母様が、「ピアノなんだから、早く脱ぎなさいって言ってるでしょ」と強く言ったので、彼女は意地になってしまいました。こうなるとテコでも動かない頑固な彼女です。
 これがわが子だったら、きっとわたしもムキになってなんとか手袋を取らせようとしたに違いないのですが、生徒だと全然冷静でいられるから不思議です。「いいですよ、手袋したままで」と言い、お母様には帰っていただきました。
 彼女は「いつ、手袋を脱げと言われるか」と疑心暗鬼になっているので、なんだか緊張感いっぱい。肩に力が入ってます。そんな姿がおもしろいやらかわいいやらで、あえて何も言わずに、面白がっていることを顔に出さないように気をつけつつ、そのままレッスンを始めました。
 最初のゆっくりな曲は弾きずらそうながらも、なんとか無理しながらちゃんと弾けました。なので○。次のバイエルはかなり難航。だって指が極端に太いんですもん。そりゃあ別の場所もさわってしまうっていうものです。これには本人も苛立ちを隠せません。そして3曲目、ニ長調のスケールでとうとう自分からギブアップです。「もういやだ、このくそ手袋!」ぽ〜んと放り投げて怒ってました。そうでしょ、そうでしょ。弾きずらいでしょ(笑)というわけで仕切りなおし、きちんとひととおり、いつもどおりのレッスンをしました。
 さて、ここで終わりなら、「もう二度と手袋をしたまま弾かない!」という陳腐な話になるところですが、実は誘惑に勝てないおバカさんが、ここにもう一人。うずうずしていたわたしも猛烈にやってみたい気持ちになっており、手袋を持ってきて、悪のり。ふたりして手袋をはめて「ねこふんじゃった!」に即興で伴奏をつけながら連弾してみたら、これが案外面白いのです。この曲なら音が飛び出したり、変なところを触って不協和音になっても全然平気です。かえって味に聞こえたりもします。変なテンションで、興奮しながら手袋で鍵盤を叩くわたしたち(笑)
 なんだか妙に意気投合してしまい、「またやろうね〜!」と言われたときに初めて、「ああしまった!」と思いました。余計なことをしたな・・間抜けなわたし。でも、今まで知らなかった新鮮なタッチ。何十年もかかっても、絶対に思いつかなかった遊び方を小2の彼女に教えてもらった感じです(笑)まさかとは思うのですが、これに味をしめて、毎回レッスンのたんびに彼女が手袋をしてきたらどうしよう?!と今はドキドキしているわたしなのです。バカだなあ。