ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

小さなしあわせ

水曜日に来ている1年生のすーちゃんが、レッスンの帰り際

「ピアノたのしい!!ほんとたのしい!!らいしゅうまたね!」

と興奮気味に言いながら、何度も振り返っては手を振りつつ、帰って行きました。

学童を終えて午後7時からのピアノのレッスンは1年生にとっては少し過酷かな?と思っているのですが、やっと軌道にのってきました。

すーちゃんは3人姉弟の3番目なので、一見世慣れていて、なんでもわかっているような顔をしているし、口もよく回るのですが、実はちょっと臆病で見かけよりもずっと不器用なところがあります。

なかなか両手で違う指を動かせなくて、違うリズムを弾けなくて、苦戦してました。

来る時は毎回とてもはりきって入ってくるわりに、夏頃は「なんだかおなかが痛い!」だの「喉がからからで水が飲みたい」だの「指を怪我したから左手は今日はやりたくない」だのと言ったかと思うと(笑)

いっぱいほめられるソルフェージュばかりやりたがって、時間引き延ばし作戦してるな?という日があったり(笑)

どうも家でもあんまり練習してない様子です。

そんな時におばあちゃんに「おねえちゃんの時と比べて進み具合が遅いね~」と言われたそうで(やめて!そういうの、涙)

さらにくじけてやる気をなくして、困ったなぁと思ってました。

最近の小さい子の傾向として、本当に拒否モードになると、石のようになっちゃって、何を言っても聞こえません!!状態になり、意識がいっぺんに遠いところへ行ってしまいます(笑)

マスクをしているからよけいになのか、割と簡単に自分の殻に閉じこもれてしまうようなところがあって。

そうなると目も合わず、なかなかに手がつけられません。

聞けば学校でもそうらしくて、フルタイムで働いているおかあさんは何度も学校から「早退したいそうです!」と連絡をもらっては、仕事を切り上げて帰らなくてはならなくて。

でも家に帰ってくるとけろっと元気になって。

「困ってるんですよ~」とおっしゃっていました。

それでも一度もお休みせずに来てくれていたのは、おねえちゃんの時からの長いお付き合いでお母さまも慣れていて、信頼関係ができていたのと。

すーちゃん本人が、練習はしなくても、決してピアノに行きたくないとは言わなかったからだそうで(笑)

それもまた、うちの教室にはありがちなパターン(笑)

でもイヤだと思うことは絶対にしないし、納得しなければてこでも動かない。

最初の1年、どうかすると2年くらい、心を完全に開いてくれてはいないと思われる子は結構いて、わたしもたいがい慣れてはいますが。

やっぱり苦戦している途中は苦しくて。

あの手この手で作戦を練って、なんとか彼女の信頼を得るべく、懐に入ろうとするのですが、仲良しにはなったのに、肝心なところでは拒否されて、意外と手厳しかったすーちゃん。

とはいえ、とうとう最後まで仲良くなれなかった、わかりあえなかった…という子は、数十年の歴史の中で、いまのところ一人もいません。

それを心の支えに(笑)きっとそのうちなんとかなるだろうと思っていたら…

その時は突然にやってきました。

11月くらいのある日、音楽の教科書で習ったという「はるなつあきふゆ」という歌に振り付けをしてみたんだけど…と言いました。

「見せて?見せて?」と言って伴奏してあげたら、ピアノの横でとても張り切って歌いながら振り付けをしてみせてくれました。

それがとても上手だったので、思ったままにほめたたえたら、翌週はさらにバージョンアップさせてきて。

リズムにばっちり振り付けが合っているだけでなく、なんだかその振り付けや、素直な歌声が人の心を捉えるのです。

ちょっとすごくない??と素直にそう言うと。

「大きくなったらNiziUみたいになろうかなぁ♡」とすーちゃん。

オーディションを受けるんだね。できるかもよ?なんて乗っかって話してたら。

次の週は彼女が大好きなピアノの本、ピアノランドの「つきよのうさぎ」という曲にも振り付けをしてきたと言い出して。

踊るピアノ教室と化した彼女とのレッスン(笑)

この曲はふたりで輪唱したり、リズムあそびをしたりも楽しい曲なのですが、この彼女考案のつきよのうさぎの振り付けがまた素晴らしいではないですか!!!

踊りながらおもちをほおばる顔とか絶品!!だし。

「ここはもちつきなんだね!?」「ここでおもちを延ばしてるんだね!」

やってること、表現がリズムとぴったりですごく伝わるのです。

ひゃーっ!!才能開花!!!と先生バカを発動して(笑)

「すごいね~」「素敵だね~」と褒めちぎっていたら…

翌週はわたしにもその振り付けを覚えるようにと言い(笑)

振り付け付きで輪唱しよっ先生とか言い出して。

これが楽しくて、毎週何度もやりました。

思いのほか、心からワクワクする時間だったのでありました(笑)(笑)

そうやって自分がやりたいと思うこと、得意なことをきっかけに、急速に盛り上がるというのはピアノのレッスンでよくある話ですが…

なんとこの踊りながら歌うという繰り返しを毎週やっていたら、あれあれ?ピアノまで家でたくさん練習し始めたではありませんか。

すご~い!!

そして。

あっという間に苦戦していた両手で別のリズムを弾くというのができるようになっちゃった!!

身体全部で音楽にのることが、トレーニングになったのかもしれません。

ウソのようなお話ですが、ほんとのことで。

褒められるからまた練習する…といううまいサイクルになってきて。

気がつけば、レッスン中におなかが痛いとも、喉乾いたたとも言わなくなったなぁと思っていたら…

学校からも「迎えにきてください。」の連絡がなくなったそう。

ひと山越える時って、ほんのちょっとのきっかけなんだなぁというお手本のような展開になりました。

そしてついぞ冒頭の会話になったというわけです。

小さなしあわせを感じたひとこまでした。

今のところ、レッスンは感染対策をしながらゆるゆると続けていますが、せっかくうまくいきかけているこの好機をなるべく逃したくないなぁと思いつつ。

でも本当に危ない気がしてきたら、一旦閉める覚悟も決めてます。

いずれにしても、すーちゃんにしても、他の子たちも、大人の生徒さんたちも、まだまだいくつもいくつも山あり谷ありだと思いますが、長い目で見つつ、じっくりと見守れたらと思ってます。