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これをアップしてしまってから、夕飯のあとでゆっくり返信いたします。
さて。
表題の「はじまりのうた」は昨日見てきた映画です。
ニューヨークが舞台のとっても素敵な映画でした。
公式サイトはこちらです。
友人のブログで感想が書かれていて、彼女の文章がとっても上手で、強烈に惹きつけられました。
で、どうしても映画館に見に行きたいと思っていたところ、たまたまお休みだったオットが一緒に見ると言ってくれたので、レイクタウンの映画館で見てきました。
先にリンクを張った公式サイトはあえて行く前にはほとんど見ずに行ったのですが、見終わった後、舐めるように端から端までじっくりと読みました。
とりあえず、ちょろっとでも気になった方には、公式サイトから飛べる予告だけでも見ていただきたいです。
これを見ただけで、音楽好きにはたまらない映画だというのが十分に伝わるんじゃないかと思います。
続きを読むからは、感想を書いていきますが、もし見に行こうかな!?と思われた方がいたら、見てから感想を読まれてもいいかもです。
半信半疑な方は、かなりネタばれてますけど(笑)大事なところはストーリーというよりも鳴っている音なので、たいした問題はないかもしれないし、もちろん最後のオチまでは明かしてませんので、ご覧になっても大丈夫です。
恋人に裏切られ、自分の音楽は認められず、失意のどん底、まさしくニューヨークを去ろうとしているシンガーソングライターの卵の女の子が、旧友に促され、思いがけず、バーのステージで1曲歌う機会を得るところから、物語は始まります。
いやいやステージに上がり、歌い出した彼女の声は決して悪くはないと思うのですが、酒場ではあまり好評ではないらしく、だんだんにガヤガヤと客席は私語が多くなっていきます。
やっぱりダメそうだというムード漂う中、ひとりだけ、目を輝かせ、彼女の音楽に強烈に惹きつけられて行く中年のさえないおじさんが映し出されます。
このふたりが主たる登場人物です。
この、最初の酒場でのふたりの出会いは、結構長い同じシーンが冒頭3回も繰り返されるという、とってもおもしろいつくりになっていて、回を重ねるごとに、そういうことか!!という発見があります。
ストーリーを細かいところはわからないまま追いかける1回目。
そのあとの2回は、主演の女の子グレタとさえない中年のダン、それぞれのサイドストーリーを入れながら、どういう心境であのシーンに至ったのかがていねいに描かれます。
視点が変わると、同じ歌声やギターの音のはずなのに、イメージや歌声まで変わって聞こえ、違う意味をもっているように感じられるから不思議です。
特に素敵だったのが、荒んだ心のダンが、偶然耳にしたグレタの声に心を捉えられた、その瞬間のシーン。
彼は実はかつての名プロデューサーで、腕は確かなのですが、今は見る影もなく、会社からも首を言い渡され、飲み代すらろくに払えないほど困窮しています。
そんな彼が、無名ながら輝く原石のグレタの美しいボーカルに出会った瞬間のリアクションを、あんなに美しく目に見える形で映像化した監督はスゴイなぁと素直にそう思いました。
強いお酒をぐいっとあおって、心ここにあらずのダン。
別れて暮らしている妻にも娘にも軽蔑され、もう自殺くらいしかない?というところまで追い込まれています。
そんな彼の耳が、グレタの歌声をふと捉えた瞬間に目が覚めたように顔を上げます。
Aメロ、Bメロと曲が展開していくにつれ、どんどん輝いていくダンの瞳。
勝手に指がリズムを刻み始め…
「ここで弦を入れて」「ここはドラムを入れて」「ピアノはこうで」…
どうアレンジしたらもっとこの曲が生きるか、そんなことを頭が勝手に考え始め…
ダンの中のプロデューサー魂のようなものがどんどん勝手に出てきて、イメージがどんどんふくらんで、自分の耳に聞こえてくるイメージのシーンは圧巻でした。
そしてダンは立ち上がって彼女の方に近づいていきます。
他のお客さんの退屈そうな顔。
対照的にさきほどまでのくたびれ具合がウソのように生き生きと高揚したダンの顔。
そこにあるのはただただ心を魅了してやまない原石のボーカルの輝き。
そしてかつての名プロデューサーの揺ぎない勘。
グレタ役の女優さん、キーラ・ナイトレイ嬢は、癒し系のとてもいい声で、本気でこの道を選ぼうとするなら、ボーカリストとしてもかなりいい線行くんじゃないかしら?と思わされました。
もちろん女優さんとして第一線のスゴイ方だから、ボーカリストにはならないと思うけど。
ちょっとノラ・ジョーンズとも似ている声のような。
ストーリーの中のグレタは、恋人で音楽仲間だったデイヴが、どんどんひとり華やかにスターの階段を上っていくのを眺めているほかなくて、しかもパートナーとしての場所のみならず、恋人の座までも失ってしまいます。
そんなこんな、出会った瞬間は、グレタもダンもどん底で絶望の淵にいたわけですが、この、たった1曲での出会いにより、二人は共に生きる気力を取り戻し、精力的に共にアルバム作りを行っていきます。
そもそもふたりともスタジオを借りてレコーディングをする資金もないわけで、レコーディングは、ニューヨークの街のいたるところで行われます。
ミュージシャンを集めるにもお金がないので、彼はたとえばクラシックの実力者だけれど無名な子たちに声を掛けたり、バレースタジオの伴奏者、街角の子ども、あらゆるところから、名声や評判とは一切関係なく、人を集めます。
過去自分が育てた今は大スターになっている偉大なミュージシャンにグレタを会わせたら、スターは費用は自分もちで、実力のあるドラマーを貸してくれるといいます。
ダンの自分がかつて培ってきたご縁や、才能を聞き分ける耳だけを頼りに、次第にすご腕のメンバーが集い、アルバムの収録が始まります。
この映画は、全体として常に良質な音楽が鳴っていて、セッションしたり音を作っていくシーンが多いので、それだけでもとても楽しめるのですが、横糸となるダンとグレタ、それぞれの抱えている問題や気持ちにも焦点が当てられて、物語に深みが増します。
かといって音楽から芯をずらすことなく、安易なラブストーリーにもしなかったところにもとても好感を持ちました。
この映画は、最初ものすごく少ない映画館で上映が始まり、評判が評判を呼び、どんどん上映する映画館が爆発的に増えていったのだそうですが、見てみてすごくわかるような気がしました。
グレタのかつての恋人デイヴ役のアダム・レヴィーン氏は本当の実力派ロックスターなのだそうですが(すみません、無知で、笑)最後の最後、本気で歌う場面が出てきて、この1曲も圧巻でした。
公式サイトの中に、同じ「LOST STARS」という1曲について、キーラ・ナイトレイと、アダム・レヴィーンがそれぞれ歌っているバージョンで動画があるのですが、映画は見に行けないけど、体感してみたいという方がいらしたら、ぜひぜひこの両方の動画をご覧になって!!
公式サイトのサイドバーの、スペシャルミュージッククリップというところから飛ぶことができます。
同じ歌なのに、全然違うアプローチ。どっちもほんとに素敵です。
この動画、今朝から何度も見てしまいました(笑)
アダム・レヴィーンはストーリー上、最初の方ではあんまり魅力的に見えないのですが(笑)この動画の部分の本編の歌声は神がかりにすばらしかったです。
まごうことなき、プロのシンガーの実力を見せ付けられる感じがします。
完敗に乾杯!!(笑)
他にもやっぱり名だたるミュージシャン、シーロー・グリーンが映画でもダンの名プロデュースにより確固たる地位を確立しているミュージシャン役で、ラップで歌う場面が出てくるのですが、ここもほんのワンフレーズでしたが、なにごと?というくらいすばらしかったです。
わたしは、登場人物の中の、グレタのかつての音楽仲間で、常に親友に温かい視線を投げ、支え、ヒントをくれる売れないミュージシャン、スティ−ヴが大好きになりました。
好きなシーンは多々あれど…
最も心をゆさぶられたシーンは、グレタとダンが、ある夜、それぞれの携帯用音楽プレーヤーのプレイリストを聞かせ合うシーン。
かなり仲がいい人にでも、プレイリストを見せ合うってなんだかとっても恥ずかしい気がするのですが…
ヘッドフォンの二股コードは魔法の道具で、ふたりはこれを使ってお互いのプレイリストを一緒に楽しみながら、夜のニューヨークをひたすらに歩き回ります。
予告動画の中にも出てくる字幕に
陳腐でつまらない景色が美しく輝く真珠になる
と書いてあるのですが、まさしくそんな感じ。
夜のニューヨークのゴミゴミした街並が、さまざまなふたりのプレイリストの中の美しいBGMに彩られ、ピカピカと宝石のように輝いて見える、そんな描写はただただ素敵でした。
そして、誰にもそういう経験があると思うのですが、わたしもわたし自身の、携帯音楽プレイヤーの思い出にしばし浸りました。
たとえば電車の中で触れたあんな曲、こんな曲の思い出がいろいろ時系列も関係なく、ぽろぽろぽろぽろこぼれ出てきて、なつかしいような甘酸っぱいような、ちょっと痛いような、不思議な気持ちになりました。
こういう状況で、世代も違えば性別も違う男女がひとつの音楽をたったふたりで共有して、夜の街をひたすら一緒に歩いていたら…勘違いの?(笑)恋でも始まっちゃいそうで(笑)…実際、ちょっとそんな展開はイヤ?なんて思いかけましたが、そうはなりませんでした(笑)
夢はあくまでも夢…そんなさじ加減も絶妙だったな(笑)
さらにさらに。
途中の気の合う仲間のパーティーシーンで、ものすご〜くノリのいいダンスミュージックをわざと鳴らして「動いちゃダメ!」「ノッちゃダメ!」というゲームをするシーンが出てくるのですが、ここもすご〜くおもしろかったです。
ぴくりとも動かずに、直立不動でとんでもなくノリのいいダンスミュージックを聴き続けなくてはなりません。
そしてさもありなん。音楽が始まった途端、その場に直立不動でとどまっていることが、とっても苦痛な音楽人たち。
これをとまって聴くなんてとてもムリ!
そりゃそうでしょ、わたしもムリだ(笑)
曲をかけてまもなく、その場のみんなが困ったようなむずかしい顔になってゆき、我慢できないぞ!と眉毛を八の字にして…即効ゲームはおしまいです。
みんな、解き放たれた瞬間から、思う存分身体を揺らし、ステップを踏み音楽に身を任せ、存分に曲そのものを味わいます。
ああ、生活に音楽があるって素敵。
なぜか帰り道、カーヴスでもよくかかる、ヴィレッジ・ピープルの「Can't Stop The Music」が脳内をぐるぐるしました(笑)映画とはまったく関係がないんですけどね(笑)
ビルの屋上で、公園で、駅のホームで、時には素人のちびっこコーラスを入れて、ダン親子の競演を交えて、時にはおまわりさんに追いかけられながらの音楽シーンは最高です。
たいしてギャラももらえる保証がないのに、よい音楽を創造したいという一念だけで集まったメンバーの演奏シーンのすばらしさは言うまでもなく。
最後のオチは今の日本が抱える音楽界のさまざまな問題点を、偶然にも皮肉るかのようなつくりになっていたり(笑)
いろんな意味で楽しめて、さわやかな気持ちになれる映画でした。
ああ、本当に実感したのですが、いい音楽は自分の耳で聞き分けるしかないのです。
売れてるから、誰がいいって言ってるから、人気だから好きなんじゃなくて、信じられるのは自分の耳だけ、感性だけ。
根っこのところを忘れてはなりませぬ。
これ、サントラ欲しいな、DVD欲しいな!と久しぶりに映画を見てそう思いました。
見ることができて本当によかったです。