ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 最近読み終わった本たち その3

☆スウィート・ヒアアフター よしもとばなな

スウィート・ヒアアフター

スウィート・ヒアアフター

商品の説明のところには下記のように書かれています。

内容紹介
命の輝きが、残酷で平等な世界の中で光を増していく――。
今、生きていること。その畏れと歓びを描き切った渾身の書き下ろし長編小説!

「とてもとてもわかりにくいとは思いますが、この小説は今回の大震災をあらゆる場所で経験した人、生きている人死んだ人、全てに向けて書いたものです。」――よしもとばなな

ある日、小夜子を襲った自動車事故。同乗していた恋人は亡くなり、自身はお腹に鉄の棒が刺さりながらも死の淵から生還するが、それを機に小夜子には、なぜか人には視えないものたちが見えるようになってしまった。行きつけのバーに行くと、いつもカウンターの端にいる髪の長い女性に気付いたり、取り壊し寸前のアパート「かなやま荘」の前を通ると、二階の角部屋でにこにこと楽しそうにしている小柄な女性がいたり……。その「かなやま荘」の前で出会った一人の青年・アタルと言葉を交わすうちに、小夜子の中で止まっていた時間がゆっくりと動き始める。事故で喪ってしまった最愛の人。元通りにならない傷を残した頭と体。そして、戻ってこない自分の魂。それでも、小夜子は生き続ける。命の輝きが、残酷で平等な世界の中で光を増していく。今、生きていること。その畏れと歓びを描き切った渾身の書き下ろし。

本の帯にも同じようなことが書いてあって、店頭で読んだ時には???といっぱいのクエスチョンマークが浮かびました(笑)
正直どんな展開になるか想像がつかなかったのですが、経験上ばななさんの物語は「考えるんじゃない!感じるんだ!」というのが多いし、そういうテイストはキライじゃないので「ばなな節全開の予感!」とワクワクしながら思わず購入してしまいました。
ばななさんの本に最初にはまったのは「キッチン」「TSUGUMI」「哀しい予感」「白河夜船」の頃だったと思います。
まだまだ独身だった頃、ばななさんの物語はどこかほかの誰とも違う雰囲気を醸し出していて、強烈に惹かれたのを覚えています。
その後いくつもの作品を読みましたが、ここ10年くらいに読んだものの中で一番のお気に入りは「マリカのソファー/バリ夢日記」。
多重人格の少女とオトナのジュンコさんのバリへの旅物語なのですが、確かこの文庫を実際にバリ島への旅行に持って行って読んだような覚えがあります。あのときも「どう好きか」をうまく言葉にできなくて困りました。バリの独特の風土や気候の中で、自分の中のたくさんの人格に見守られながらひとつに統合されてゆくマリカの魂。見守るジュンコ先生。ひとりの中の他の人格たちとのせつなくも哀しいお別れ。
あの本どこへやっちゃったんだろう。
今回の本はマリカのソファーと比べるともうちょっとストレートでわかりやすいですが、読んだ時の感覚はとても似てました。
読み手の誰の心も傷つけないし、控えめに心の中に入ってきて、心の内側から読み手の心をほんのり支えてくれるようなそんな感覚。
ずっと手元に置いて独り占めしておきたいというよりは、みんなに回して「読んでみて」と勧めたくなる本だと思いました。
うまく言えないけど、大好きです。
さて。
この本は一見「死」や「死んでしまった人」を深く見つめて書いているようで、実は「生きる」ということ「生きている人」を深く見つめて書かれています。
「スウィート・ヒアアフター」というのは甘い来世という意味なのですって。
大きな事故により、恋人を亡くし、身体にも心にも大きな傷を負った小夜子は、生きながらにして別人のように変わってしまいます。
何ごとにも執着がなくなり、まるで神さまみたいにすっきりさっぱり。さらっとあっさりと暮らしている彼女の描写に接するたび、最初なぜだかせつなくて、彼女の代わりにわんわん泣きたくなるような、そんな気がしたのですが、途中でそれはちょっと違うなあと思い直しました。
彼女の気持ちをわかったような気になるのはちょっと違う気がしたのです。
あくまでもわたしは、彼女の目を通して一緒に彼女の経験を体感し、その時々の彼女の思いに寄り添えばいいのだなあと・・・まるで知合いの女の人のことのように、お話の中の小夜子を身近に感じながらそう思いました。
物語はそんな小夜子の「再生」の道のりを描いたお話です。小夜子を通して再生への険しい道のりをちょっとだけ垣間見れた気がしました。
人の深い悲しみ、苦しさに対して「あなたの気持ちはよくわかる。」「わかったわ」なんて軽々しく言えないけれども、入り口にはやっと立てるようになった。門の前まで連れてきてもらえたような気がしました。
この作品の中には何曲かキーワードになる曲が出てきて、作品を彩り、理解する手がかりをくれました。
たとえば最初にドドーンと歌詞つきで出てくるのが、亡くなった彼が大好きだった歌、レナードコーエンというカナダのシンガーの「Lover,Lover,Lover」という歌です。
まったく知らない曲だったのですが、重要なキーになる歌に違いないと思ったので、ネットで検索してみたら動画サイトですぐに出てきました。
想像していたのと全然違う、激しくて強くて、ちょっと怖いくらい切実な歌でした。
その曲の激しさとお話本編のどこかつかみどころがない感じがびっくりするほど真逆で、かえってそのことがずっと心に残ったのですが、恋人を亡くした人が一見どう見えようとも、その心の中がそんなにあっさりとしているはずもなく。主人公の心の奥底の激しい部分をこの曲が引き受けてくれているような、そんな感覚を持ちました。
そして、最後のページに出てくる歌詞は、なんの曲の一部か書いてなかったのですが、どこかで見たことがある歌詞で絶対に知っているような気がして、よ〜く思い出してみたら、実は大好きだった古いアニメの曲。わくわくするようなめくるめく冒険のお話「宝島」の主題歌でした。
本文に載っていた歌詞を引用させていただくと

行く手にはみんなまだ知らない ふしぎな昼と夜とが待っているだろう

ここだけで何かわかったわたしもエライ!!(と自画自賛、笑)
このアニメ曲の詞と壮大な物語のことを思い出した時、物語の中の主人公の「時」もまたちゃんと動き出したのだということを実感できた気がして胸が熱くなりました。
どんなにつらい思いをしても、その思いが永遠に続くように思われても、日はまた昇る。人はまた歩き出す。
そういうことを押し付けがましくなく、さりげなくやさしく・・・物語が示唆してくれます。
最後まで不思議な余韻の残る物語だったなぁとしみじみと思います。
そしてこの「言葉にできない不思議な感覚」を味わいたくて、これからもまたばななさんの本を読むのだと思います。
ばななさん自身は「震災をあらゆる場所で経験した人へ」と書いていらっしゃいますが、震災に限らず、いろいろな思いから抜け出せない人、誰かの心に寄り添いたいと願いつつもうまくできなくて戸惑っている人にとっても・・・
とてもとても大切な一冊になるんじゃないかと思いました。

下町ロケット 池井戸潤

下町ロケット

下町ロケット

内容紹介にはこんな風に書かれています。

内容紹介
第145回(平成23年度上半期) 直木賞受賞

「その特許がなければロケットは飛ばない――。
大田区の町工場が取得した最先端特許をめぐる、中小企業vs大企業の熱い戦い!
かつて研究者としてロケット開発に携わっていた佃航平は、打ち上げ失敗の責任を取って研究者の道を辞し、いまは親の跡を継いで従業員200人の小さな会社、佃製作所を経営していた。
下請けいじめ、資金繰り難――。
ご多分に洩れず中小企業の悲哀を味わいつつも、日々奮闘している佃のもとに、ある日一通の訴状が届く。
相手は、容赦無い法廷戦略を駆使し、ライバル企業を叩き潰すことで知られるナカシマ工業だ。
否応なく法廷闘争に巻き込まれる佃製作所は、社会的信用を失い、会社存亡に危機に立たされる。
そんな中、佃製作所が取得した特許技術が、日本を代表する大企業、帝国重工に大きな衝撃を与えていた――。
会社は小さくても技術は負けない――。
モノ作りに情熱を燃やし続ける男たちの矜恃と卑劣な企業戦略の息詰まるガチンコ勝負。
さらに日本を代表する大企業との特許技術(知財)を巡る駆け引きの中で、佃が見出したものは――?
夢と現実。社員と家族。かつてロケットエンジンに夢を馳せた佃の、そして男たちの意地とプライドを賭した戦いがここにある。」

読んでいて何度もワクワクした物語でした。
一気に読むのはもったいないと思いつつ、ほぼ2時間くらいで読み終わってしまいました。
前半部分は、小さな工場の経営者が大企業から訴状を受け取るところから始まって、時間の経過と共にどんどん事態が悪化してゆくので、このまま工場は潰されてしまうのか?どうやって会社の危機を跳ね返すのか?というのが核になった物語なのかと思いきや・・・実はそこはまだまだ序の口でした。
実際の物語の中核は主に後半部分です。下町の小さな工場が、誰にも負けない技術力で、ロケットの部品を提供するという夢に向かってひた走ります。
もちろんそんなに一筋縄ではいきません。内外から、そして家族からもいろいろな圧力がかかって、絶体絶命のピンチに何度となく追い込まれます。
それでも尚、夢を追うためにあらゆる手を尽くす町工場の佃社長と側近の部下たち。
その後半部分になったとたん、頭の中でずっと小田和正氏の「やさしい雨」という曲がぐるぐるしてました。
そうです。TBSの「夢の扉+」という番組の主題歌です。
まさしくあの番組が小説になったかのような・・・と言ったら一番わかりやすいかと思われます。
お話の中身に触れてしまうと、これから読む人がつまらなくなってしまうのであえて書きませんが・・・
日本にたくさんある町工場は、その技術力の高さ、緻密さ、仕事の丁寧さにも定評があって、小さな町工場だからこそできる技術というものが受け継がれ、日本を支えている・・・というのをもう一度思い出させてもらった気がします。
町工場に限ったことではありませんが、日本の良いところ、他国にも負けないところってなんだろう?というようなことも、この本を読みながらたくさん考えました。
こういう小さな町工場を潰して、新しい技術、大きな組織ばかりを優遇する世の中になってしまったら、日本のいいところをたくさん失いはしないかな?そういうことに、そろそろ日本人は本気で気がつかなきゃいけないんじゃないかな?そんなことも考えました。
さらに、いくつになっても夢を追うということの大切さにも気づかされた気がします。
その本気の情熱が、たとえ最初は途方もないことに思えても、やがて人の心を動かし、夢の実現へと向かわせるのかもしれません。
「どうせムリ」とか「日々無難なことをやってれば」・・・という空気のなかでは、これ以上の発展はないのかもしれません。
佃製作所の社員たちは、みんなとても個性的でどこかいびつなところを持っています。そんなたくさんの個性が集まってひとつの会社を形作っています。
考え方も違えば引っかかるところも違う。ぶつかったり反発したりもします。
ひとりひとりはカッコイイわけでも、ドラマみたいにスタイリッシュな職場で働いているわけでもないけど、素敵な夢を持つ社長の夢に、いつしかみんなが引っ張られ、ひとりひとりの力が結集されて素晴らしい製品が生まれる。
その感動をみんなで分かち合える。
ああこういうお話大好きです。
最近世の中全体がどうみてもおかしくて、閉塞感があるし、こんな世の中じゃ何をやってもうまくいかない気さえします。
そんななんだかなぁの日々の中で、後ろ向きを食い止めて、「前向き」を思い出したい方にオススメの一冊です。