ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 木暮荘物語

最近本の感想をちゃんと書いていないことに気がついたので、年末までに書けるだけ書こうと思います。
一冊目は一番最近読んだこれです。

木暮荘物語

木暮荘物語

三浦しをんさんの単行本「木暮荘物語」。
内容(BOOKデータベース)には

小田急線・世田谷代田駅から徒歩五分、築ウン十年。空き室あります!安譜請ですが、人肌のぬくもりと、心地よいつながりがあるアパートです。うまい、深い、面白い。三拍子揃った会心作。

と書いてあります。
ひとつひとつの物語は短編ですが、全部の物語には「木暮荘」というつながりがあって、一見すると、最近読んだ有川浩さんの「阪急電車」とちょっと似た感じです。
有川作品における「阪急電車」がしをんさんの作品の「木暮荘」という古ぼけたアパート。
この物語もまた、ひとつの物語の主人公が別の物語でも登場人物のひとりになっていたり、他の人の視点で語られたりもします。
やっぱりとてもハートウォーミングなところもあるお話で、同じしをんさんの「まほろ駅前多田便利軒」のシリーズが好きな方はきっとこの物語も好きだと思います。
ただし、ハートウォーミングだけで終わらないのがしをんさん。
この物語が決定的に有川さんのそれとは違うのは、どの物語の中にも「性」が少しずつ、時には中心にどーんと据えられて物語が進行しているのです。
だからといって眉をひそめるようないやらしい話にはならず、どこかくすっと笑えたり、ちょっとせつなかったり、そして意外にも読後感がどれもとってもさわやかです。
下の階の「やりまくり」な女子大生の部屋を夜な夜なのぞいているサラリーマン。それに気づきながら、まっいっかとふわっと容認しちゃってる現代っ子の光子は、お医者さんから「一生子どもは持てない」と言われ、心に大きな傷を負っていて…。
友人の死をきっかけに、もう一度だけ、だれでもいいからどうしても女性を抱きたいという気持ちに取りつかれた管理人の老人。
3年も姿をくらましていた元彼が突如現れて、今彼との生活の中に強引に割り込んできて、3人で繰り広げられるヘンテコな時間。
トリマーの女の子と、彼女と同じ名前のプードルを飼っているヤクザとの、超意外な出会いと穏やかでやさしいお散歩タイム。
どのお話も普通だったら思っていても言わないことや、なんとなくオブラートにくるまれるべきことがどどーんと露呈して、どうするんだろう?この人たち…と思っていると、意外と「ああそう」「そういうものだよ」「わかるよ」「いいんじゃないの?」と受け入れてくれる誰かがいて。
ボロアパートの吐き出し窓に腰掛けて、一緒にアイスを食べる管理人と女子大生。
上の階からのぞいているであろうサラリーマンに、「ねえいるんでしょ?」とちゃっかり除光液のありかを聞く女子大生。
そんな彼女の荒れた生活をいつしか母親みたいに心配し始めてしまうのぞきくん。
トリマーの彼女を心の古傷と決別させてあげるために、散歩友達のヤクザ氏は木暮荘のジョンを洗わせてもらう手筈を整える。
かっこよく生きられなくても全然平気だよ。
要領よく生きているように見えるあの人も、人生経験豊富に見えるあの人も、どうみても危なそうなあの人も、み〜んなどっかヘンだけどちゃんと暖かい血が通っているあなたやわたしと同じ人間なのだ。
そんなことを自然に思わされるあたたかい気持ちになれる一冊です。
この人にはしあわせになってほしいなあと思っていたその人にもどうやらハッピーエンドが用意されていてホッとした場面もありました。
わたしが一番印象に残った話は、とても深いところまで転がってゆく「ピース」と「柱のみのり」そして、「シンプリーヘブン」。
ちょっと変わったお話ですが、心がちょっと疲れた時にぜひぜひオススメしたい一冊です。
しをんさんの新作はもう一冊読まずに残してあって、これはお正月休みの間に読もうかなあと思っています。
彼女、今年もKinKiコンに参加されるかしら?
もしやとなりで仁王立ちしている彼女がしをんさんかもしれない…と思うと、なんだかドキドキわくわくするしをんさん&KinKiファンでございます(笑)