ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

くすくす笑いながら眠るしあわせ

ボタニカル・ライフ―植物生活 (新潮文庫)

ボタニカル・ライフ―植物生活 (新潮文庫)

もっと早く読めばよかった〜と心から後悔している本との出会いがありました。
いとうせいこうさんの「ボタニカル・ライフ 植物生活」です。
西の方にお住まいのお友達のひろこさん、ここをお読みになってるかしらん!?
この本は『買い』です!!誰が何と言おうと『買い』です(笑)
データベースを紹介すると

庭のない都会暮らしを選び、ベランダで花を育てる「ベランダー」。そのとりあえずの掟は…隣のベランダに土を掃き出すなかれ、隙間家具より隙間鉢、水さえやっときゃなんとかなる、狭さは知恵の泉なり…。ある日ふと植物の暮らしにハマッた著者の、いい加減なような熱心なような、「ガーデナー」とはひと味違う、愛と屈折に満ちた「植物生活」の全記録。第15回講談社エッセイ賞

う〜ん、いまひとつこのおもしろさが伝わらないなぁ。
いとうせいこうさんと言えば、ここを読んでらっしゃる方々がまず思い出すのは「見仏記」だと思います。みうらじゅんさんとのコンビで仏像を語る数々の著作はわたしもかなり持ってます。DVDもほしいくらいです。
え?それ何?と思ってらっしゃる方のためにそちらも載せておきますが…

見仏記 (角川文庫)

見仏記 (角川文庫)

見仏記〈2〉仏友篇 (角川文庫)

見仏記〈2〉仏友篇 (角川文庫)

こんなのがあります。(ちなみにわたしが特に好きなのは、下の方の仏友編です。)
まえがきはともかくとして…
今日はそうです。「ボタニカル・ライフ」です。
この本との出会いは、以前にNHKトーク番組に出られたいとうさんが、「僕はベランダーです。」と胸を張っておっしゃってて、ベランダで植物を育てたり、ベランダを一面芝生にしてみたりしていらっしゃることを知りました。
その番組内で話した内容だけでもかなりこの方の園芸ライフが風変わりなことが伺われました。見仏記で仏さまを愛でているときと植物に対する思いに同じ匂いを感じたのです。
「風変わり」というのはわたしにとっては最高のほめ言葉で、こりゃあこの本を読まないわけにはいかないだろうと思ったのが昨年の確か秋頃だったかも。
検索してみると、この方の園芸ライフはわたしたちが大好きな紅茶屋さんが名前を借りたという作家の「カレルチャペック氏」の園芸本にもとても影響を受けていらっしゃるそうで、合わせてカレルチャペック氏の文庫も買いました。
園芸家12カ月 (中公文庫)

園芸家12カ月 (中公文庫)

これです。
ちなみにこの本のデータベースにはこんな風に書かれています。

品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
チェコの生んだ最も著名な作家カレル・チャペックは、こよなく園芸を愛した。彼は、人びとの心まで耕して、緑の木々を茂らせ、花々を咲かせる。その絶妙のユーモアは、園芸に興味のない人を園芸マニアにおちいらせ、園芸マニアをますます重症にしてしまう。無類に愉快な本。

この本に影響を受けて書かれた本であるならば、きっとおもしろくないはずがないと思ったのですが、あいにく当時は読んでいる本がありすぎて、すぐに読書に着手できず、最近になって読み始めてみたら…あまりのおもしろさに抱腹絶倒する毎日。一気に読んでしまうのがもったいなくて毎晩寝る前にちびちび読んでました。
ほんとうはもっと味わってから日記で触れたかったのですが、実はオットが火曜日からインドに出張に行くことになりまして、この本はロングフライトの疲れを癒すのにもってこいなので、オットに貸してあげることにしました。
というわけで、とりあえず急いで感想を書いてみます。
(下書きを書いたのは月曜日です)
たとえばこんな話。シャコバサボテンです。彼はシャコバサボテンの蕾がうまく開かないのは何かが問題なはずだと知り、あちこち調べてシャコバサボテンには「短日処理」という作業をすればいいのだという知識を得ます。
日光を当てる時間を限定するために花々をダンボールで覆い、遮光したり取り外したりという「作業」をルーティンワークの中に組み込みます。
来る日も来る日も彼はダンボールの上げ下げに熱中します。すべてはシャコバサボテンのために。
花が咲いてもこれからまだまだ咲き続ける花のためにいつまでも段ボールと格闘しているうちに、ふと彼は気づくのです。ここからはちょっと引用します。

俺は悩んだ。花を咲かせたのはいいが、それがすべて散るまでダンボールに支配されているわけにもいかなかった。俺はシャコバを楽しみたいのであって、箱の移動が楽しいわけではないのだ。これでは本末転倒だ。
中略
おまえはあくまでもシャコバサボテンなのだ。
いつまでも段ボールの付属品でいてはならない、と。
つまり俺は娘を独立させるような気分で、一人、段ボールをひきつぎっていたのである。

ね!?おもしろそうでしょう!?(笑)
一人称はあえて園芸本にふさわしくない「俺」にしたそうですが、そういうセンスもすごく好き(笑)
たとえばアマリリスにうっとりし、蓮の花にあこがれて、水草に振り回されつつ金魚やめだかまで飼い始め、ゴミ置き場で捨て子を拾うような気持ちでオンシジウムを泥棒さながらな気分で救出したり(笑)
シクラメンのかほり」というタイトルがなってないと思っていたくせに、成り行きからいつの間にか「真綿色した♪」シクラメンに夢中になり(ぐふふ)…
それはそれは植物相手に大奮闘し、彼らを愛で、時には憤怒し、植物の生きざまに人間の様々なことを重ねて哲学する楽しい楽しい物語です。
園芸好きのみなさんにはもちろん、悩み多き日々の中、罪のない笑いがほしい方にもおすすめの一冊です。元気がでること請け合い。
それからこの本を読んでつくづく思ったのは、自分の気持ちひとつで、身近にあるいろいろなことをもっと何十倍にも楽しむことができるということ。
いとうせいこうさんの植物との日々はそれはそれはドラマチックで不思議に満ちていて、毎日がなんて楽しそうなんだろうと思うのです。
でも…その世界に足を踏み入れることは決してむずかしいことではありません。
たとえお金をたくさんかけなくても、立派な庭がなくても、条件のいいベランダじゃなくても、知識があまりなくても…彼は自分なりのやり方で園芸ライフを楽しんでいて、これは園芸ライフに限らず、何にだって応用できる人生を楽しむコツでもあるような気がします。
このほんのちょっとの楽しみがあれば、つらいことがたくさんあっても救いがないような毎日の中にも、きっと笑顔が生まれる瞬間がいくつもできそうな気がします。
『一度きりの人生、どうせなら笑って過ごしていきましょっ!!』と自分にも言い聞かせつつ、みなさまにもご提案しておきます。うふふ。