ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 おくりびと

 きのう、オットとふたりで見てきました。納棺師という職業があることはよくは知りませんでしたが、昨年祖母が亡くなったとき、そういえば女の方がいらしてくれて、「旅立ちのお手伝い」をしてくださったなぁと思い出しながら見ました。
 とにかく納棺までの一連の作業が、様式美の極致という感じで、美しい所作に目をみはりました。まるでイリュージョンのように、流れるような動きの中であっという間に作業が終わり、仏さまは、まるで生きているかのように美しい姿になってお棺の中に納められるのです。こんな珍しい仕事もあるんだなあという感じではなくて、ひとつの仕事の厳しくもプロフェッショナルな部分を見せつけられたかのようなそんな気がしました。
 この映画はそんなに大宣伝をしているわけでもないのに、外国でもとても話題になっているそうですが、それがよくわかるような気がします。日本という国がずっと昔から持っている、他の国にはない、大切に守っていかなくてはならない何かがたくさん詰まっている映画だと思ったのです。
 山形の静かな風景やしんしんと降りしきる窓の外の雪の光景とか、テレビのない静かな部屋とか古いレコードとか。若い夫婦が囲む食卓の、つつましやかで日本人らしい献立とか。さばいたばかりの鳥肉とか、銭湯とか、夫婦の静かな会話とか…なんだか郷愁を誘われる景色がたくさん広がって、いつまでも見ていたいような気持にもなります。
 また、主人公が幼い頃から弾いていたチェロの音色が、映画全編を通じて静かで温かい空気を醸し出していて、見ていてやさしい気持ちになることができます。
 こういうテーマなので、もっと重い映画なのかと思ったら、意外にも結構コメディータッチで、笑える場面もたくさんありました。
 主人公のかつてバリバリアイドルだったもっくんこと、本木雅弘氏が、時にコミカルで時に静謐なお芝居を上手にしていたと思います。事務所の社長役の山崎努氏もとても魅力的で、彼を見ると自然と「お葬式」という映画を思い出すのですが、どこかしら共通する匂いがあったかも。
 山崎氏のセリフで、ふぐの白子を指して「これもある意味ご遺体だよ。でもおいしいんだよ。困ったことにね。」というシーンがあって、ちょっとシュールでもありますが、くすくす笑いつつもとても心に残りました。
 共演の余貴美子さんや笹野高史さん、吉行和子さんもとても素敵でした。でも、登場人物のだれよりもなんといっても奥さん役の広末涼子ちゃんがとてもおとなしやかでひかえめ、でも地に足がついたやさしい奥さんを好演していて、とても心に残りました。この夫婦のありかたが素晴らしかったです。
 途中、主人公と彼のおとうさんの昔のエピソードが出てきて、石を交換しあって、その感触から石をくれた人の気持ちを一生懸命に想像して読むシーンがあるのですが、そこがとても心に残りました。
 それから、心の変化や事実を全部が全部言葉にして説明しすぎていない点もとても好印象でした。
 2時間ちょっとの時間がとても短くて、あっという間でした。
 映画を見る前は、大切な仕事だけれど、ちょっと怖いかも…と思っていた納棺というお仕事は、大変なこともたくさんあることと思いますが、とても素敵なやりがいがある仕事に見えるようになりました。
 死んだ方の身体にいつくしむように触れ、装束を整えてやさしくあたたかくあの世への旅に送りだしてゆく納棺師の仕事ぶりを見ていたら、あんな納棺師さんにめぐり逢えたらしあわせだなあとまで、思いました。
 深く余韻が残る映画でした。久石譲さんの音楽もとてもよかったし、チェロの音色がなんとも心地よかったので、サントラを探してみようかなあと思っています。