緊急事態宣言が出て以来、さすがにピアノのレッスンは中止しています。
今はピアノは自分のために弾いていて。
ただただピアノに向かうことが、こんなに楽しいものだったっけ?と久々に思い出しているところです。
折しも…
「歌うことが幸せなことなんだと、そう感じる反面、いまは歌うことが自分にとっての癒しかもしれない」というLF氏の言葉に触れ。
音楽家としてのプロ中のプロのそれと一緒にしてはいけないのでしょうけれど(笑)
ああ、一緒!ほんとうにね!と深く共感しつつ。
わたしは毎日家で、思いのほかなんやかんやと気忙しく、わたしの時間を過ごしているところです。
さて。
この日記は少し前の話ですが、ずっといつかアップしようと思ってました。
高校生になるので、先月末でピアノ教室を卒業した生徒、Iちゃんのお話です。
彼女は小1になってすぐ、うちの教室にやってきました。
3つ上におねえちゃんがいるので、幼児の頃から頻繁に顔を合わせていましたが、極度の人見知りなんですよ~とお母さまに伺っていて。
お試しレッスンはきっと一人ではムリだろうと、おねえちゃんと一緒にやってきました。
ところが…レッスン開始5分でおねえちゃんが「こんなに外でしゃべったり笑ったりするIは初めて見た~!ウソみたい!!」とびっくりして「わたしいなくてよくない?帰るね!」と退室(笑)
途中から二人っきりになったお試しレッスンから9年間、ずっと良好な関係を保ったまま。
今年になってからはお別れするのがお互いさびしくてさびしくて、とても名残惜しい時間を過ごしました。
Iちゃんは、歌を歌うのが大好きで、声がまたとても美しいので、レッスンのおしまいにとりわけよく二人で歌いました。
合唱コンクールの課題曲や自由曲。学校で習った歌はたいがい一緒にハモろう!と楽譜を持ってレッスンに来ては、数々一緒に歌ってきました。
歌う時間を確保したいからたくさんピアノの練習してきた!なんて本末転倒なこともありましたが、そこまで一緒に歌いたいと思ってくれる幸せ。
赤毛のアンの「アンの幸福」に、アンの下宿のお隣に住んでいる8歳の「小さなエリザべス」が出てきます。
大人のアンと、何一つなく不自由なく祖母に育てられてはいるものの、愛情を受けてない小さなエリザベスは、毎朝門扉を挟んで会話をするうちにとても仲良しになります。
年は全然違うけれど、同じように空想、夢想するのが大好きで、孤独や辛い日常を空想で乗り越えようとする同類で。核心に迫るお互いの悩み事とか想いについても言い合える腹心の友の一人となるのです。
わたしはそんなアンとエリザベス、ふたりの関係性がとても好きで、小さな生徒たちとも師弟というよりは、そんな付き合いができたらと常々思っているのですが…
Iちゃんは歴代のうちの生徒たちの中でも、とりわけ小さなエリザベスっぽかったかも。
小さくて青白くて、瞳がとても大きくて。妖精の国のお姫様のよう…というエリザベスと、外見もとてもよく似た美少女で。
中1になっても130センチしかなくて、オクターブがいつまでも届かずで、本当に苦労したのも今は昔(笑)
あっという間に追い越されて、今はひょろひょろっと手足が長くってやっぱり妖精っぽいです。
彼女もわたしも、普段は決しておしゃべりな方ではなく。
彼女とのレッスンは常々淡々と進むのだけれど。
時々ゾーンに入ると急にどちらからともなく熱っぽく音楽を語り出したり。
かと思うと学校で起こったとんでもない出来事をこっそり話してくれたり。
わたしもレッスンで起きた恥ずかしい失敗をふと話してしまったりもして。
「ああ、こんなこと言ってる場合じゃない!先生早く弾こう!」とか「歌おう!」とかって我に返るような。
そんなことがよくありました。
ああ、すでにとても懐かしいです。
さて。
地元の小中学校の卒業式は、埼玉が発祥の地であるところの「旅立ちの日に」が歌われることが多いので、Iちゃんは中1の時に、すでにかの曲の伴奏のピアノ練習はばっちりしてあって。
3年になった時に伴奏者のオーディションを受けるか、それとも歌う方を選ぶか、きっと迷うだろうなぁと言ってました。
ところが…
「先生、卒業式の歌、違うのになっちゃった!」と聞いたのは今年の初め頃。
「『群青』って曲らしいよ?どんなのだろ?『旅立ちの日に』がよかったな」と言ってたのが。
次のレッスンの時、楽譜をくれて「先生、これ、めっちゃいい曲!!これ、絶対先生と一緒に歌いたい!!」と興奮気味に言うではありませんか。
その群青という曲は、福島県で生まれた歌。
下のサイトを参考資料として貼っておきます。
動画や歌詞もあるので、ぜひぜひご覧になってみてくださいね。
簡単に書くと…
福島県南相馬市で、震災、そして原発の事故により、離ればなれになることを余儀なくされた生徒たちが、仲間を思って抱いた気持ち、つぶやいたり文章にしたものを集めて、小田先生が曲にされたのだそうです。
(注:誤植がありました。相馬市ではなくて「南相馬市」でした。訂正しました。すみません。y.s.さ~ん、地元お近くの方ならではのご指摘、感謝感謝です!!)
福島県では卒業式でこの歌を歌うことが恒例になっているのだそうで。
どうして今年、いつもの「旅立ちの日に」ではなく、埼玉県の学校でもこの曲が歌われることになったのかはわかりません。
でも、まずは音楽の授業でCDを聴いて、地元の3年生たちもいっぺんで好きになったのだそうです。
わたしも早速Iちゃんに動画サイトで合唱を見せてもらい、楽譜をもらってピアノ伴奏を弾いてみたら、本当にいい曲で大好きになりました。
あの日見た夕日 あの日見た花火
いつでも君がいたね
当たり前が幸せと知った
自転車をこいで君と行った海
鮮やかな記憶が
目を閉じれば群青に染まる
「先生、まざまざと光景が浮かぶよね。」「ああ、共感するなぁ~」そんな風に言ってました。
早くいっぱい練習したいと言ってましたが、なにぶんにも彼女たちは中3。
受験生なので。
受験が終わる日まではそれぞれが家で練習することになっているそうで。
「ちゃんとした合唱練習は、受験が終わってからなの。楽しみなんだ~」
といつも話していました。
そんなこんなで、今年の最初の頃のレッスンでは、ピアノの後にアルトのパート練習に付き合ったり、わたしがソプラノを引き受けてハモったり、そんなことをしていたなぁと思い出します。
「早く受験終わらないかなぁ。」とIちゃん。
翌日からクラスマッチとか、文集作りとか、合唱練習とか。
「楽しいことばかりだよ~みんなといっぱい中学ラストの時間を楽しむんだ~」
なんて言っていて。
「あとちょっとじゃない。過ぎてしまえばあっという間よ~楽しみが待ってるんだからがんばれ!」
なんてはっぱをかけたりもして。
笑い合ったのもまだ、遠からずの記憶です。
ところがです。
公立の受験のために、ほとんどの生徒が学校に行かなかったその日、唐突に全国の学校が一斉に休校になることが決まり。
その日が金曜日で、決定後一日も学校に行かないまま、長い長い休校に入ってしまったのだそう。
次に学校へ行けたのは合格発表の日。
でもその日は公立の合格者のみが登校だったので。
次にクラスメート全員が学校に揃ったのは、なんと卒業式、その日限り。
結果的に、受験日の前の日が、クラス全員で普通の中学校生活を過ごした最後となってしまったのだとか…
ああ、なんて気の毒。
しかもIちゃんたちの学年は、幼稚園の卒園の直前に震災だったので、幼稚園の卒園式もとうとうできなかったのですって。
そういう年回りの子たちなんですよね~とおかあさま。
卒業式だけは、クラス単位で行われたそうですが、歌はウイルスを媒介するかもなので歌わず。
もちろん群青もお蔵入り…ということで、Iちゃんはとてもさびしそうにしてました。
なんだか因縁めいたものを感じると思わない?先生。
あんなに気持ちを寄せて歌うのを楽しみにしていた「群青」の生徒たちと、同じように離ればなれのまま卒業になっちゃった…とIちゃん。
「またね」と手を振るけど
明日も会えるのかな
遠ざかる君の笑顔 今でも忘れない
の歌詞が、ほんとにリアルになっちゃった…とIちゃん。
ああ、本当にね!とわたし。
今、旅立つ日 見える景色は違っても
遠い場所で君も同じ空
きっと見上げているはず
この歌詞も学校へ行かないから、何度も噛みしめたんだ~とも言ってました。
ああ、そうでありましょうとも。
そんなこんな、いろいろあって。
3月いっぱいはまだ教室を開けていたので、最後までちゃんとレッスンを続けることができました。
何にもなくなっちゃったから、ピアノがあってよかったなぁ…とも言っていて。
ここまでずっとやってきたように、できるだけいつも通りを心がけながら、3月は淡々とレッスンをしていたのですが、最後の最後、何か彼女のためにしてあげられることはないかな?と思い…
最後のレッスンのラスト10分は彼女がとりわけ大好きだった歌を一緒に歌おうと思い立ちました。
まず「群青」を一緒に歌うでしょ?
あとは何をしよう?と考えた時に。
ずっと以前、大人の生徒さんが持ってきて、レッスン室に置いてあった中島みゆきさんの「糸」の楽譜にとても食いついたことを思い出しました。
その時も、何回かレッスンのたびに一緒に歌ってみたものの、イマイチキーが低すぎて。
とても歌いずらそうで残念!いつか最適なキーに移調して歌わせてあげたいと思ったことを思い出しました。
そんなわけで、彼女のためだけに一番彼女が歌いやすいキーで。
後々、おうちで弾き語りもできるように。
そして、彼女の実力で歌いながらでも楽々弾けるように、少し伴奏を簡単にしたバージョンで作ってあげることを思い立ちました。
そうやって作った楽譜がこれです。
イマイチ雑な仕事で、ちっともかっこよくはできなかったけど、世界にたった一つだけのIちゃんのためだけの譜面。
喜んでもらえてうれしかったです。
最後のレッスンではもちろん一緒に歌いました。
縦の糸はあなた 横の糸はわたし
逢うべき糸に出会えることを
人は仕合せと呼びます。
ああ、本当にそうだなぁ。
お手紙と共に彼女に楽譜を渡して。
あえてしんみりとしないように、お互い気をつけながら(笑)
いつもの通りいつもの通り。
「これで今日のレッスンをおしまいにします。」
「ありがとうございました。」
この決まり文句もとうとう9年間、一語一句変えず言い続けて終了。
笑顔で「バイバイ!!」といつも通りお別れしました。
その後、さらに非常事態宣言が出て。
お互い外に出ないものだから、一度も顔を合わせることがなく。
さみしいなぁと思っていたら…実は一昨日、Iちゃんがおかあさまと共に、久々に顔を見せてくれました。
(コロナ騒動で、挨拶に行っていいものやら、ずっと迷っていてくださったのですって!)
そんなこんな、やっとひと区切りという感じになったので、この日記を書くことにしました。
楽譜はもちろん、お手紙も親子で本当に喜んでくれて。
「親子でお手紙を読んで泣きました!!」とお母さま。
(恥ずかしい!そのうえ、5枚くらい書いたのに、何を書いたか今となってはまったく覚えてな~い!!呆)
「高校へ行っても、また慣れたら通いたいと言い出したので、その時はよろしくです!」と言ってくださったのもとてもうれしく思いました。
おかあさま曰く。
コアラみたいにのんびり屋で、何につけてもやる気があるんだかないんだか?って感じで。
超人見知りで内弁慶だけど、その名の通り(バレバレですね、笑)、愛されてあたりまえって感じの甘えたさんの3女のIが、唯一、ピアノだけは、だって楽しいんだもん!と一度も休みたいと行ったこともなく。
「土砂降りでも、たとえ台風でも、試験の3日前でもこれだけは!と、唯一、決して休まず通ったのがピアノでした!!」と言ってくださって。
こんなに凄いほめ言葉があるだろうか?とわたしもジーンとしてしまいました。
つくづくとわたしは生徒たちに恵まれていて。
また一人、わたしの大事なエリザベスを送り出してしまいましたが…
まだまだたくさんの子たちと繋がれている幸せも、ちゃんと感じていなければなぁと思ったり。
ああ、一日も早く収束して、またレッスンができる日が来るといいなぁと思う今日この頃です。
せっかく時間ができたので、少しずつオンラインレッスンの勉強も始めました。
世の中がめまぐるしく変わっていく中、わたしたちも環境に合わせていかないとな時期が来ているのかも。
さて。
ここからは画像です。
いつもふぇるまーたを訪れてくださる、y.s.さんに送っていただきました。
彼女は福島の方で、毎年お花見山の春の景色を送ってくださいます。
お裾分けのご了承はかなり前にいただいていたのですが、シェアし損なっていました。
このタイミングで、群青に出会い、そして群青が生まれたふるさと、福島の景色の画像をいただく奇跡。
いつもよりもさらに、福島を身近に感じたし、y.s.さんと出逢えた幸せも思いました。
ありがとうございました♡
とても美しい景色なので、たまたま訪れてくださったみなさまも、どうぞ癒されてくださいね。
そろそろこの自粛生活も2週間が過ぎ。
自宅待機の夫。家で仕事をするアネ。順番で都内に出社するオトート。
そんなこんな、家の中の人口密度が常に異様に高いものですから。
ひたすらおさんどんに追われつつも、そんな生活にも慣れてきたので。
少しずつ日記も書きたいです。