ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

 本当は怖い?…奈良

ちょっとどっかで読んだグリムとか、そんな雰囲気でタイトルをつけてみましたけど(笑)
ここのところ、猛烈にはまっていた本&コミックのご紹介です。

時はどちらも奈良時代
奈良に都があった頃のお話です。

そしてどちらの物語も鍵を握る人物が時の権力者、女帝であるところの持統天皇です。

最初に出会ったほうはこちら。

朱鳥の陵 (集英社文庫)

朱鳥の陵 (集英社文庫)

商品の説明のところには、こんなことが書かれています。

商品の説明
内容紹介
他人の夢を読み解く力を持った白妙(しろたえ)が、時の太上天皇讚良(ささら)、後の持統天皇の心の中に飲み込まれていく。強大な権力を手中にし、愛する者を次々と葬った持統天皇の真実に迫る。傑作歴史長編。(解説/細谷正充)


内容(「BOOK」データベースより)
時は飛鳥。他者の夢の意を読み解く力を持つ白妙は、皇女の夢を解くため京にやってくる。しかしその夢を解こうとするたびに、見知らぬ少女の心に呑み込まれてしまう。それは最高権力者である太上天皇、後の持統天皇の過去だった。彼女の心の奥へ奥へと入り込む中で、白妙は恐ろしい秘密へと近づいていく。強大な権力を手にし、愛する者を次々と葬った古代最強の女帝の真実に迫る歴史長編。

ね?ちょっとおもしろそうでしょ。

で、前の日記でも触れましたが、この本を読もうとしたら「大和言葉(やまとことば)トラップ」にやられてしまい、最初とっても読みにくかったのと、さらに、持統天皇を取り巻く奈良時代の登場人物があまりにもたくさん出てきて、しかも、一人の人にも呼び方が何通りもあって、ややこしいことこのうえなく。

さらにたとえば天智天皇天武天皇にはたくさんの妻がいて、それぞれの妻がまたたくさんの子どもを産み、どんどん係累が複雑になっていきます。
その上、かなり血が濃い相手と結婚したり、誰かの奥さんをもらい受けたり、妻や夫がいても別の人と愛人関係になったり、複雑極まりないことになっていて。

これはダメだ!ちゃんとわかって読まなくてはおもしろさが半減だ!と思ったわけです。
(というより、わたしが不勉強なだけかもですけどね、笑)

というわけで、この本を読むための参考書として、検索して途中で読み始めたのが、こちらのコミックでした。

天上の虹(1) (講談社漫画文庫)

天上の虹(1) (講談社漫画文庫)

ちなみに漫画文庫一巻の商品の説明のところにはこんな風に書かれています。

商品の説明
出版社/著者からの内容紹介
新千年紀(ミレニアム)元年に読む歴史ドラマ恋愛ロマン
律令制定・日本書紀編纂など、数々の歴史的偉業を成し遂げた女帝・持統天皇。その愛と苦悩の生涯をドラマチックに描いた王朝ロマン傑作が、ミレニアムに蘇る!

日本の黎明期(れいめいき)・古代大和。国家情勢が激動する645年、う野讃良皇女(うののさららのひめみこ)(のちの持統天皇)は誕生した。大化の改新により、豪族から天皇家へと実権を取り戻した讃良の父・中大兄皇子(なかのおおえのみこ)は、次々と政敵を排除し、ついに実質的な権力者となった。
有間皇子(ありまのみこ)への恋心を消せぬまま讃良は、父の命により中大兄の弟・大海人皇子(おおあまのみこ)に嫁ぐことになる。一方、中大兄に疎まれた有間には、非情な運命が待ち受けていた。冷酷で横暴な父への反撥心は、讃良に大海人への愛に生きることを決意させる──。父を越えたいと願い、愛に、人生に、強く生きた女性、持統天皇の物語。里中満智子が綴る大型歴史ロマン第1巻!

わたしは、最初に6巻セットを中古で購入しました。

読み始めてみたら、途中知っている部分もあってびっくり。
あれ?と思ったら、最初に「mimi」で連載されていた頃かなぁ?多分、一部はオンタイムで読んでいるらしいことがわかりました。

読んだ部分があることも忘れていた?そんなに長い歴史が?とびっくりされる方もいらっしゃることと思いますが、最初に連載が始まったのが1983年なんですって。
と考えると、いかに長く連載されていたかがわかります。

そしてそして、わたしが読み始めたときには未完だということしか知らなかったのですが、ちょうど今出ているものをすべて読み終わる頃に最終巻が出て、まるで最終巻に照準を合わせて出会ったかのようなタイミングになってしまったのが不思議過ぎて笑えました(笑)

今は2015年ですから、実に32年の年月をかけて物語が完成したことになります。
里中先生、本当にお疲れさまでした。

ちなみに…
わたしのように、読んでみようかなという、このコミック初心者の方がいらしたら、最も効率的な読み方は、わたしが上に挙げた講談社漫画文庫がオススメです。

一巻にコミック何冊分かずつが詰め込まれているので、コミックを全部(23巻まで)揃えるよりはリーズナブルだし、本棚のスペースも小さくて済みます。

ちなみに今のところ、10巻までこの漫画文庫で出ていて、わたしは中古も混ぜつつここまで読み進め、そのあと、22巻と23巻だけコミックで買いました。

天上の虹(22) (KC KISS)

天上の虹(22) (KC KISS)

天上の虹(23)<完> (KC KISS)

天上の虹(23)<完> (KC KISS)

最終巻では、晩年を迎えた持統天皇が、いよいよ亡くなるところまでが描かれています。


漫画文庫の11巻は2015年冬刊行となっていて、それが出ると全部が漫画文庫で収まるそうなので、そちらを待って全部揃えてもいいかも?ですが、わたしはあまりにはまってしまったので、待ちきれず、一気に全部読んでしまいました(笑)

さて。

そもそもわたしは、高校時代に一度万葉の世界にとてもはまったことがあって、当時、特に好きだと思っていたのが額田王であり、柿本人麻呂であり、そして、大伯皇女であり、大津皇子でした。

それで修学旅行の班行動の日に、大仏も鹿も薬師寺もすべてすっ飛ばして、当麻寺や山の辺の道を選んだくらいです。
今だったら考えられませんけれども(笑)

その癖に、その後は音大受験にシフトして、そのまんま音楽方向へどっぷりになってしまったので、わたしのこの時代への興味は唐突に「マイブームおしまい!!」みたいに途切れてしまったわけです。

そして、30年以上も経って、久々に紐解いたらどっぷりになってしまったという…

実際、この里中先生のコミックでも高校生のわたしが好きだった人物はみな、とても魅力的に描かれておりました。
もちろん里中先生の味付けがたくさんなされているから、これがそのまんま正しい奈良時代の歴史を辿ったものとは言えない部分もありますが、その部分も含め、里中先生がどの人物にもとても愛情、愛着を感じてらしたのが伺われてとてもおもしろかったです。

持統天皇という人は、とても怖い女帝というイメージが少なからずありましたが、このコミックでは、幼少時代から、23巻にもわたり、彼女を追いかけ、ていねいに描かれているので、場面場面、どうしてそういう心情に至ったかがとてもよくわかりました。

たとえばわたしが大好きだった大津皇子は、持統天皇の一粒種の草壁皇子とほぼ同時期に生まれ、帝王としての才覚、資質にあふれていたが故に、謀反の疑いありということで死に至らしめられてしまいます。
彼のお姉さま、大伯皇女が読んだこの句が高校生の頃からとても印象に残っていて、今でも覚えているのですが

うつそみの人にあるわれや明日よりは二上山(ふたかみやま)を弟(いろせ)とわが見む

これです。

この句の背景を知り、味わっていた当時、持統天皇という人は、自分の息子かわいさに、政敵になるかもしれない若者の命を葬った悪い母のようなイメージがあったのですが、この物語の中では、そこに至る過程もとてもていねいに描かれていました。

そのストーリーは里中先生によって紡がれているから、必ずしも史実とはイコールではない部分もあるかもですが、わたしにはとても納得できる部分もありました。

草壁や大津が子どもの頃は、どの奥さんが生んだ夫の皇子たちも、天武天皇の一番位が高い妻の自分が、公平に、守り育てて行きたいと純粋に思っていた時代もありました。

また、晩年には、あの子が今でも生きていたら、もしかしたら当時とは全然別の関係性が生じていたかもしれない…と思うに至ったシーンもちりばめられています。

これらの場面を読むと、誰に対してであれ、勧善懲悪な捉え方は浅はかかもしれないと気づかされます。

逆に言うと、草壁皇子はこの物語の中では、自分が自分がという気持ちは微塵もなくて、とても心優しく穏やかな人で、母が力ずくで天皇に押し上げられようとしたことで、自分をますますダメだと思うようになり、深く心を病んで、ついにはその一生を自ら閉じてしまうのです。

この辺りに「息子(娘)のためによかれと思ってしたことが」ということが裏目裏目に出ていく皮肉、これはこの時代に限ったことではないな…と思ったり。

常に押し上げていきたい息子の政敵になりそうな回りに目を光らせ、常に大事な息子に有利になるように、根回しをし、なりふり構わず東奔西走する母親の姿は、どっかの事務所の女帝たちを思わせる…なんてことをこっそり思ったり(げほげほ、失礼!笑)

誰の心の中にも苦しみもあれば嫉妬もあり、やさしい気持ちや弱さもあり、それが運命の糸によって、いかようにも翻弄され、自分が望むと望まざるによらず、その道を選ぶことになるということもあるのだ…ということだったり。

人の心は恐ろしい、誰かを疑い出したらきりがないという側面や、たとえば不老不死の薬だと信じていたものの中には、実は今では劇薬、人を死に至らしめるものがあったりもして、今の時代の目線で読むと怖いところもたくさんあります。

そして、政治が大きく舵を切った時代でもあるので、今の世の中ともついつい比べながら読んでしまうところも多々ありました。

そうやって見ていくと、この時代は確かにとても恐ろしい陰謀がたくさんうずまいてもおりますが、一方で、国の先頭に立つ人間たちの誰もが「国をよくしたい。」「理想の日本を作りたい。」という高潔な思いを根っこに持っていて、そういう意味では私利私欲とは無縁で、どんなに嫌われても、悪い帝だと思われても、自分ががんばることできっと将来の日本はよくなる、人々の暮らしは安定するに違いないという、その信念を貫いていて、ああ、ここは今のこのご時勢に一番欠けているところじゃないかしら?なんて思ったりもしました。

実はわたしが今現在、一番興味を持っているこの時代の女性は光明皇后なのですが、この物語では、後の光明皇后はまだ子どもで、ちらっと出てくるに過ぎません。
里中先生はこの方の物語も書かれているので、次は「女帝の手記」というコミックを読みたいと思っています。


さて。


話が前後しすぎておりますが、この「天上の虹」の文庫版を6巻くらいまで読んだところで、並行して「朱鳥の陵」に再度着手しました。
この辺りまで読んでいたので、こちらの物語の主たる人物、高市皇子やその妻の御名部皇女がどういう方で、この頃の持統天皇はどんな立ち位置でという背景がよくわかって、大和言葉もあまり気にせず読み進めることができました。

里中満智子さんも坂東真砂子さんも、歴史の大きな流れはもちろん壊してませんが、どちらもこの方たち流の味付けをされているので、同じ時代の物語とはいえ、違う設定になっていたり、物語そのものも、全然違うイメージのものに仕上がっているのですが、こちらの物語はより持統天皇という方が恐ろしいたくらみに身を任せた方として描かれていて、読み進めるにつれ、ぞわざわと粟立つような恐怖にかられていきました。

こちらの物語では、終始、人の夢の中に入り、夢を解くことができる人物「白妙」の目線で奈良時代が描かれています。
白妙は常陸の国の人間なので、都の外から来た人物の瞳を通して見た都の中は、また天上の虹とは全然違う色をしていました。

彼女はなぜか、高市皇子の夢を解こうとしているのに、何度もそれと知らず、持統天皇の夢の中に引きずり込まれてしまいます。

子どもの頃の持統天皇。少女の頃の持統天皇。夫であった大海人皇子が生きていた頃の妻としての持統天皇。大きくなった息子の、孫の母として祖母としての持統天皇

どんどん知らなければよかった、とんでもない秘密を白昼夢で知ってしまうがゆえに、彼女は追い詰められていきます。

この物語では、持統天皇は自分が天皇になるために、最愛の夫や最愛の息子を次々毒殺してしまった恐ろしい女性として描かれているのです。
そして白妙が夢解きを頼まれた高市皇子が出てくる夢というのは、その持統天皇の所業の数々を暗示している夢だったという設定です。

かなり最後のほうまで、白妙は、実際に持統天皇とすれ違うことはおろか、まったく別の世界から別の世界を眺めているかのように進められる物語ですが、途中で、こんなに恐ろしい秘密を知ってしまったのでは、絶対にただじゃすまないだろう…という雰囲気になってきて、最後の数十ページはさらにぞっとする展開を迎え…

そうだった!坂東真砂子さんは、ホラーなお話が得意な方だった!以前に一冊だけ読んだ「死国」というお話もすご〜く怖かったんだった!と思い出しました。

レインってば、遅いよ!!遅いから!!

そしてそして…ああ、ある意味期待通り?の怖さでありましたのことよ!

でありながら、読み進めずにはいられないくらい物語は先を先をと急かされる感じもあって、ひさびさ、わかっていながら奈落の底に突き落とされた!という感じの後味の本を読みましたのことよ!というのが感想です。

でも、物語としてはとてもよくできているし、スリルとサスペンスは存分に味わえます(笑)


そんなこんな、ふたつの物語を読みながら、また少しだけ奈良を近くに感じました。

薬師寺がどういう経緯で建てられたのか?とか、吉野という場所が持統天皇にとって、そして夫だった天武天皇にとってどういう場所であったのか?とか、都が移される経緯とか、いろいろと興味がある話が出てきておもしろかったです。

今までは、奈良に対して、ただただ「ああ、空が広くて気持ちいいなぁ」とか神さまを見たり、歴史的建造物に感じるがままに触れる楽しさを味わっておりました。
真っ暗な夜の道を歩きながら「戻ることが未来」の意味を嚙みしめたりもしてました。

でもでもでも。

実はそんな平和な今に至るまでに、かつて都があったかの地では、何代にも渡り、たくさんの血や涙が流れ、たくさんの人々の喜怒哀楽、運命がこの地を舞台に、右へ左へ転がっていきました。

今残っている建造物や仏像などの数々は、それらの歴史の生き証人でもあり、遠き昔の時代を彩った人々の栄枯盛衰の証拠でもあるわけで。

「本当は怖い奈良」とタイトルにしたのはそんなわけです。

もちろんだからと言って、「かつてこんなに怖いことがあったなんて、奈良にはもう行きたくない」なんてことは微塵も思ってはおりません(笑)
さらに奈良から京都へ都が移された後も、この地にはさらにたくさんの歴史が重ねられて、いろいろな時代を経て今があるんだなぁというのを、これらの物語を読んだことで、少しは肌で感じられたような気がしました。

限りある命だから、やり残しがないように、大事に生きなければ!という気持ちにもなりました。

そしてそして。

わたしはやっぱり額田王とか柿本人麻呂のような芸術家肌の人にいつの世でも惹きつけられるんだなぁというのも実感しました。
とりつかれたようにこれらの本にはまっていたのは、多分、今が比較的暇だったというのもあると思いますが、久々寝ても覚めても物語にどっぷり!というおもしろい経験をしたので、記念に書いておきます。