ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

「深愛」(水樹奈々さん)

深愛 (しんあい)

深愛 (しんあい)

この本の著者は水樹奈々さんです。彼女の大ファンのオトートに借りて読みました。
読み終わったら感想を聞かせてね〜と何人かの友達に言われていたので、上手ではありませんが、わたしなりに書いてみます。
実は少し前から読みたいので貸してと言ってあったのですが、オトートが友達に貸していて、なかなか帰ってきませんでした。
聞けば、友達の間をずっとぐるぐると回し読みされていたのだそうです。
その時は「早く返してもらってよ!読みたいんだから。」くらいに思っていた勝手な母ですが(笑)読み終わってみると、大学4年の男子たちがこれから社会に出ようというその時にこの本を読むことの意義深さを痛感。回し読み万歳!とか思ってしまいましたのことよ(笑)
この本では近藤奈々さんが徐々に水樹奈々さんになっていく過程のことがかなり赤裸々に書かれています。
その生い立ちの部分を読んでいると、小さい頃から演歌歌手になるべくお父様に厳しくスパルタで育てられた彼女の子ども時代は、とても現代っ子のそれとは思えません。
わたしが高校生くらいの時に彼女が生まれた計算になるのですが、わたしの子ども時代に歌手、あるいはピアニスト、バイオリニストなど、音楽家を目指していた人ですら、こんなに過酷な毎日を過ごしてはいなかったのではないかと思います。
とにかく暇さえあれば、カラオケの先生をしているお父さまの指示のもと、騒音の鳴り響く中で大きい声を出させられて喉を鍛えられた日々。
歌の練習練習に明け暮れ、あちこちののど自慢大会に出場させられて、次第にあちこちのイベントに呼ばれ、時におひねりをもらってそれをお小遣いにするような日常で、友達と遊ぶこともままならず、そうであるがゆえ、学校では浮いてしまい、いじめにあっていたそうです。
最初は多分彼女の夢というよりは、父の夢だったのかもしれないですけれど、次第にそれが自分の夢にもなっていく奈々さん。
そんな彼女が堀越に入学するあたりからの日常は、やっと分かり合う友を得て一瞬春の日差しが見えたかと思うと、さらに過酷な日々になっていきます。
仕送り3万で学校のロゴ入りの靴下一枚すら買うのがためらわれるような、お昼代も満足に出ないような暮らし。
いかに節約するか、空腹をやり過ごすか、そればかりを考えていた日常。
友達に一口食べる?と言ってもらうことをひそかに期待し、楽しみにしていたという話は現代っ子の話とは思えません。
彼女が優等生だった話は堂本兄弟でも聞きましたが、実家が汲々としていて、家族にこれ以上負担を掛けないため、奨学金をもらおうと必死で勉強した結果、一番になったのだと書かれています。
通学電車の中で痴漢にあったり、芸能コース以外のクラスの子たちから「なぜ毎日学校に来てるのか?仕事はないのか?」と噂されたり、皆勤であるということは芸能人として全然活躍していないということで、肩身の狭い思いをすることも多かったそうです。
それゆえ、誰にも会わないように早くから学校へ行き、勉強すること、不本意ながら勉強にひたすら打ちこむことで自分を保っていたというエピソードには胸が締め付けられる思いでした。
一緒に暮らしていた歌の先生にはよくしていただいた一方で、レッスン中に必要以上に身体を触られたり、セクハラまがいのことをされていたそうです。
「演歌歌手になるために四国を出てきたんだからここで帰るわけにはいかない。弱音は吐けない。そのことを誰かに知られたら学校もやめさせられてしまうかもしれないから、誰にも言えない。」と一人耐えていた彼女。
退路を断たれ追い込まれながら、こっそりと実家から送られてきたお菓子を布団の中で食べることでウサを晴らし、体重が激増して自己嫌悪に陥ったエピソードのせつないこと。
そんな過酷な日常がある一方で、堀越の芸能コースのクラスは意外なことにみんなとても仲が良くて、この時期に得た友達はかけがえのないものだったと奈々さんは語っていますが、読んでいくとその心がよくわかります。
伝統芸能の一家に生まれた生徒、今をときめくトップアイドル、俳優さんたち。
さまざまな華やいだ経歴を持つ同級生たちにも、一様にその生い立ち、経歴ゆえに小中学校ではみんなどこか浮き、いじめにあったり過酷な思いを重ねていて、すでに大きな痛みを抱えて高校に入学してきているのです。
学校の中にあっても、入学の頃は珍しいものを見るような目で見られ、持ち上げられ、サイン攻めにあったり。
かと思えばしばらく経つと「意外とたいしたことない」とかなんとか、やっかみ半分で今度は手のひらを返したように貶められるエピソード。
人と違うことをやっている、すでに仕事をしている、ろくに学校にも来れず、したがって成績もあまりよくないこのクラスの生徒に対する校内の冷たい視線。
それらはこの特殊なクラスのクラスメートみんなに共通する痛みであり、苦しみであったので、中の子たちは本当にみんな仲良しで助け合って日々を過ごしていたそうです。
そんな芸能コースの生徒たちも、校内では、本当に普通の子だったとも描かれています。
どうしても仕事の都合で学校に来れなくて勉強が遅れてしまう人も多くて、なんとかみんなで成績を上げようと、ノートを見せ合ったり、それぞれがお仕事で培った瞬発力でみんなで協力し合いながらがんばって、クラス全体の平均をあげ、面目を保とうとしたエピソードには心を打たれました。
わたしはこのクラスのことを「別の人の目線」から何度か耳にしていて、彼もまた超忙しい合間を縫って一生懸命学校に通っていたエピソードが有名です。
でも、入学したからにはただただ卒業したいとか、高校ぐらい卒業しておかなくてはとか、人並みの教養を身に着けたいとか、卒業を願うお母さまのためにとか…
そういうことだけじゃなくて、仲間と一緒に、誰からも奇異な目で見られない空間で、普通の高校生としての時間を過ごす、楽しみでありしあわせな時間でもあったのだろうということもわかったような気がしました。
ネットで彼らの修学旅行の写真なんかが流出しているのを見かけたりしますが、奈々さんの修学旅行のエピソードもまたなんだか胸がぎゅっと締め付けられました。
思いのほかお金がかかって両親に負担をかけることを気にしながら、楽しみ過ぎて熱を出し、半分は寝て過ごすことになってしまった修学旅行。
あの写真の中の彼らは、いろいろな思いや事情を抱えながら、なんとか時間を作ってそこに集い、束の間の高校生としての時間をどんなにか楽しみにし、楽しんでいたことでしょう。
立場や人気、忙しさはそれぞれでも、世間の高校生とは大きなギャップを抱え、学校外にも心配ごとが山ほどあり、それぞれが孤独に耐えながら、同級生、クラスメートと励まし合いともに闘いつつ、大切な学校生活を送っていたのだなあというのがとっても伝わりました。
忙しすぎて当時のことをほとんど覚えていないという日本一忙しい高校生にとっても、デビューが決まらず困窮を極め、食うや食わずの生活を余儀なくされ、それを悟られまいとして、勉強だけを支えに日々なんとか自分を保っていた高校生も…
立場は違えどどんなにか過酷だったかと思います。
黙っていたかもしれないけど、自分だけじゃなく、クラスメートたちそれぞれの苦悩にもお互いにちゃんと気がついていたんじゃないかな。
自分も苦しいからこそ、人の痛みにも敏感で、泣きたくなるような日も多かったことと思われます。
それでも彼らにとっての「高校」は、はじめて分かり合い、心を許し合える友達を得たかけがえのない場所だったという奈々さんの言葉にはとっても説得力がありました。
一方でそんな過酷な思いをしながらも、高校時代に声優さんの専門学校に行かせてもらって、猛勉強をして人より早く1年で卒業したり、やっと仕事が回ってくるようになっても衣装代すらなくて、過酷なスケジュールの中でエステでバイトまでして自分の衣装を買っていたエピソード。
幼いころからお父さまにたゆまぬ努力を強いられ、のちには自分でそれを生きる道と定めて演歌をうたう練習を積み重ねてきたこと。
それらが何ひとつ無駄になっておらず、すべては今につながっていて、すごい人だなあとも思います。
歌がうまい、声優として素晴らしいのは才能だけじゃなくて、血のにじむような歴史を重ねてきた結果の今でもあるわけで、この本を読んだ若い子たちが、彼女の今の素敵さとともに、彼女のたどってきた道を体感することはとっても意義があることだと思います。
びっくりすることに、彼女の亡くなられたお父さまは、うちの父よりも年上でした。
そのお父さまに小さい頃から教えられてきたことが、今の彼女を作っていると、社会に出てキャリアを積むにつれ、徐々に自覚してきた奈々さんは、今でも心の中でたくさんお父さまに問いかけているそうです。
声優さんのお仕事はもちろん、アーチストとしても、アイドルとしても超一流と名実ともに認められるようになった彼女ですが、ここに来るまでの苦労の日々を知ることができてよかったです。
なにより、どんな過酷な現実が迫っても、絶対に負けない芯の強さ、明るさを持っている彼女は、人としてとっても魅力的です。
時々漏れ伝わる同級生くんとのほほえましいエピソードを聞くにつけても、こんな風に支えあった仲間が真に評価され、大活躍している姿にはお互いとても励まされるんじゃないかなと思いました。
堂本兄弟ご出演の際などに、ふと垣間見える身内感というか、お互いに対するやさしい視線は質は全然違っても、互いに一番苦しくて楽しい時期を一緒の教室で過ごしたからこそのそれだろうと思います。
今学校で、社会で居場所を見つけられず辛い思いをしている人、がんばっているのになかなか成果が出ずにくじけそうな人、なんとなく目標を持てず、日々を持て余している人、これから大きくなっていくにあたり、たくさんの壁にあたるであろう子供たちにも、手に取ってもらえたらいいんじゃないかと思います。
あんなに大スターになった人がここまで自分の辛い過去について、赤裸々に書かなくても…と思うシーンもいくつもありましたが、それを押して潔く書いているからこそ、伝わるものもたくさんあると思いました。
それにしても、いろんなことを一人の小さな胸に抱えてがんばっていた奈々さん。
多かれ少なかれ、今の世の中、年を取っていても若くても、子どもでもオトナでも、みんな何かを抱えていると思うのだけれど、誰かの苦しみに気付ける人でありたいなぁと思います。
何もできないけれど、みんなが自分以外の人の痛みを分け合うことができたら、もっと世の中楽しくなるんじゃないかしら…なんてことをしみじみと思った週末。
ああ、わたしはわたしの周りの家族や生徒や友達をもっとちゃんと見ていなくっちゃダメだと雪のしんしんと降る中でしみじみと思ったりしましたよ。
ここからは蛇足です。
それにしても…ですけど。母が大好きな人と息子が大好きな人がたまたま同じ年の人。稀有な才能を持つアイドルでアーチスト…というだけでもびっくりですが(笑)この二人、思いのほか似ているところがたくさんあるんだなぁと思いました。
若い頃にふるさとから一人で上京したこと。今でもふるさとをとても大切に思っていること。
お父さまがかなり年を取ってから生まれた子であること。
愛情深いご両親に育てられ、いつもご両親のことを思いながら暮らしていること。
芯がしっかりしていて、今どき珍しい生真面目を絵に描いたような人たちであること。
ずいぶん過酷な思いをたくさんしてきているのに、今でもちゃんと少年、少女の心を忘れずに持ち続けていること。
「真摯」であるということは美しいことだなぁと思います。
この本を読んでから、ふとミュージックフェアで二人が共演した「I Love You」が見たくなって、久々に見てみました。
ふたりともまっすぐに前を向いて、訥々と歌う姿にはおふたりそれぞれのこれまで歩いていた道がにじんでいるようにも思えました。
フジテレビのキクチ氏が彼のブログで「どーもとくんのファンの人にもぜひぜひ読んでもらえたら」みたいなことをおっしゃっていたのですが、そのココロがわかったような気がします。
この本の中にどーもとくんの名前は一切出てきませんが、彼女の思いは少しずつ形を変え、同級生たちみんなの思いでもあるのがよくわかります。
表現者として人として、とっても素敵な素顔を持つお二人それぞれの今後の活躍を、オトートと共に応援していきたいです。